日向さんに突き飛ばされた
「たかしちゃん。学校どうだった?」
「うん、楽しかったよ」
「本当に? 本当に大丈夫だった?」
「うん。本当に大丈夫だったよ。きらなちゃんずっとそばにいてくれたの」
「トイレとかは? きらなちゃんがトイレに行ったら?」
「その時はついてくもん。大丈夫」
「じゃあじゃあ、きらなちゃんが休んじゃった時は?」
「えっと、それは、わかんないけど。でもきらなちゃんはもう休まないって言ってくれたから。大丈夫。それにただしくんもいるもん。心配ないよ」
「ああーん。そんなこと言われても心配だよう。母さんもそう思うよねえ」
「たかしちゃんなら大丈夫だよ」
「ええ? 母さん? もしかして心配してるのは私だけ? お父さんも大丈夫って言ってたし」
「だから大丈夫なんだって」
「お母さんおかわりー。大盛で!」
「天くんも全然心配してないー」
頭を抱えながらお母さんは台所に消えていった。
本当にお母さんは心配性だなあ。本当に大丈夫なのになあ。
「ねえ、本当の本当に大丈夫なの?」
台所から天のカレーを携えて戻ってきたお母さんはまだ心配していた。
「たかしちゃん、学校休んでいいんだよ?」
「んもう、お母さん心配しすぎだって。大丈夫。もしまた困ったことになったらすぐ休むから。ね?」
「う、うん。それならいいんだけど」
「本当に大丈夫だからね。私、今幸せなの。学校に行けて、友達と楽しく話せて、学校から帰ってきたら家族が待っててくれる。こんなふうになったらなあって思ってたことが現実になって、本当に幸せ。だから、お母さんは心配しすぎない程度に心配してて。私が困ったときは助けてね」
「うん。わかった」
お母さんは涙目になりながらカレーをパクリと食べた。私もそれに倣ってパクリとカレーを食べた。
「たかしちゃんが学校に来てから一週間経つけど、全然ね」
「うん、全然だね」
もう一週間も経つのに、いまだに根波さんに声をかけられていない。
根波さんはずっと日向さんたちと一緒にいて、話しかけるタイミングがなかった。
「ほんとあいつらずっと一緒にいるわね」
「ふふ、私ときらなちゃんもずっと一緒にいるけどね」
「そういえばそうだったわ」
一週間。私はいじめられることはなかった。それはきらなちゃんがずっとそばにいてくれるからなのか、私をいじめることに飽きたからなのか、わからなかったけど、私の生活に平穏が訪れて、とてもホッとしている。
「あっ」
突然。根波さんが日向さんに突き飛ばされた。根波さんは尻餅をついて床の上に転んでしまった。
日向さんたちは根波さんを置いて教室から出ていった。根波さんはよろよろと立ち上がり、自分の席についた。
私ときらなちゃんは二人で目を合わせた。きらなちゃんはとても驚いた顔をしている。多分、私も驚いた顔をしていると思う。
「どうしたんだろ」
「喧嘩かな」
「あんなに仲良かったのに?」
「そう……だよね」
でも、ついに根波さんが一人になった。この一週間ずっと待っていた時がついに訪れた。
「きらなちゃん……」
「どうしたの?」
「流石に今は話しかけられない……」
「そうね、なんかあったみたいだし。もう少し様子見てみる?」
「う、うん。もしかしたら話しかけてる時に日向さんたち戻ってきちゃうかもだし」
私は怖くて声をかけられなかった。日向さんたちから逃げてしまった。この日一日最後まで根波さんはずっと一人で席に座っていた。




