フリルのカチューシャにリボン……いいなあ
「絶対明日来てよ! 絶対だよ!」
「うん! 大丈夫! 明日も学校行くよ! 明後日も!」
「じゃあね! たかしちゃん!」
「うん! また明日! ばいばい! きらなちゃん!」
「お邪魔しましたー!」
……はあ。きらなちゃんが帰ってしまった。毎日遊んでるけどいつだってきらなちゃんが帰っていく時は寂しい。でも、明日も朝から会えるんだ。あの交差点で待ち合わせしてるもん。学校に行くのはまだちょっと怖いけど、やっぱりきらなちゃんのおかげでちょっと怖いだけで済んでいる。本当にきらなちゃんはすごい。
ふんふん。鼻を鳴らすといい匂いがした。もうすぐご飯の時間だ。今日は多分カレーだ。私は自分のお部屋には戻らずに居間に入った。
「お母さーん。ご飯できたー?」
いつもの私の特等席に座って、台所にいるお母さんに話しかけた。こたつに布団はかけられているけれど、電源はついていないから布団の中はひんやり冷たい。
「まだよー、綺羅名ちゃんは帰ったの?」
「うん、帰ったよ」
「食べて行けばよかったのに」
「明日学校だからってー」
「そっかそっか。もうちょっと待ってねー」
「はあい」
おばあちゃんの方を見ると、おばあちゃんが何か縫い物をしていた。
「おばあちゃん何作ってるの?」
「これはねえ、あずきのリボンだよ」
「えええ、お母さんの? 私と被っちゃうじゃん」
色は水色で被ってなかったけど、リボンは被ってる。お母さんがリボンつけたら私そっくりになるってみんな言ってたし、絶対やだ。
「お母さんとお揃いになっちゃうよ! もっと違うの作ってよ」
「大丈夫だよ。たかしちゃんのリボンと違ってこのリボンは小さいからね。カチューシャにつける予定なんだよ」
「カチューシャ?」
「うんうん、フリルのついたカチューシャの両端に小さい水色のリボンをつけるんだよ」
フリルのカチューシャにリボン……いいなあ。絶対かわいい。お母さんそんなのつけたらもっと若く見えるんじゃないのかな。なんで急にそんなのつけたくなったんだろ。
「たかしちゃん今日は久しぶりに学校に行ったんだってねえ」
「うん。行ってきた。とっても楽しかったよ」
「えらいねえ、えらいねえ。ほら、こっちおいで」
私はおばあちゃんの横に敷かれた座布団に座り直した。おばあちゃんは優しく頭を撫でてくれた。とても嬉しくなった。私が学校行ったから、おばあちゃん、安心したかな。
「ただいまー! あ、またお姉ちゃんおばあちゃんに甘えてるー。こっどもー!」
「もう! お姉ちゃんはもう子供じゃないんだからね!」
私は慌てて自分の場所に座り直した。天も天の特等席に座った。
「お母さんご飯まだー?」
「あ、天くんおかえり。もう少しだから待っててねー」
「はーい。そうだ! お姉ちゃん今日学校行ったの?」
「行ったよ。もう夏休み終わったからね」
「夏休みの前にずっとズル休みしてたくせにー」
天のくせに生意気だ。
「いいの! あれはズル休みじゃなくて休養なの!」
「何それ! 意味わかんない! ズル休みじゃん!」
「何よ! そんなに羨ましいなら天も休めばいいでしょ!」
「僕は学校行きたいからズル休みなんてしないもーん」
「むう……」
本当に天は生意気だ。本っ当に生意気だ。私のこと本当にお姉ちゃんだって思ってるんだろうか。心配になる。
「ねえお姉ちゃん。次ただしくん来るのいつ? 僕も遊びたいー」
「だめだよ! ただしくんはお姉ちゃんと遊びに来てるの! それに天は野球があるでしょ」
「ええー一日くらい休んでも大丈夫だもん。この前バスケットボール教えてもらうって約束したんだー」
いつの間に、そんな勝手に約束して。ただしくんもただしくんなんだから。私に内緒でそんな約束して。もう。
「でもまだお姉ちゃんもただしくんのお休み知らないから、多分まだ先だと思うよ」
「休みわかったらちゃんと教えてね! 野球休みますって言わないとだから」
「はいはい。わかりました」
私とただしくんとの時間が短くなっちゃうなあ。ちゃんと二人きりの時間作ってくれるかなあ。ただしくん。
「はいはい、お待たせー、今日のご飯はカレーとサラダよー」
ぐぅとお腹が鳴った。今日はお腹が空いているからたくさん食べよう。
「僕大盛!」
「私も!」
「はいはい。入れてくるからねー」
お母さんは台所に戻って、カレーを入れては机に置き、カレーを入れては机に置きを繰り返した。手伝ってもよかったけど、なんとなく今日は待っていたい気分だったから机でご飯の準備ができるのを待った。しばらく待っていると、机の上にみんなの分のご飯が出揃った。
「いっただっきまーす!」
「いただきます」
みんなで同時に食べ始めた。美味しい。お母さんの作るカレーはやっぱり美味しい。




