優子が一人になった所を一気に襲い掛かろう
「それはたかしちゃんが勝手に言ったんだよ。そっかー、好きかあ。そりゃそうだよねえ」
「きらなちゃんも本当は好きでしょ? 恥ずかしいだけだよね?」
「う……うん。それは、そうだけど。本気で嫌いってわけじゃないし、好きか嫌いかで選べって言われたら好きかなあって思う」
「じゃあ阿瀬君と一緒だ。阿瀬君のことだって好きなのに喧嘩っぽくなっちゃうわけだし。それがきらなちゃんなんじゃない? 好きだったらちょっと話しにくくなっちゃうの」
「でも蹴人やぱぱ……じゃなくてお父さんの事は置いといて、たかしちゃんは? 私たかしちゃんのこと大好きなのに普通にお話しできるよ?」
「うーん……。私が、女の子だから?」
「なるほど……。確かに、麗夏やここにだって普通に話せるもんね。忠や一は好きじゃないから普通に話せるし……。そっかー好きだからかー。なるほどなあ。私、たかしちゃんが羨ましいな」
「なんで? 変な名前だよ?」
「名前じゃなくって! 好きな人と普通に話せるのが羨ましいの! あ、名前が嫌ってことじゃないよ?」
「ふふふ。きらなちゃんがそんなこと思うなんて思ってないよ。でもそっかあ、私、好きになった方が話しやすいんだよね。何だか安心して。だから阿瀬君とか縫合くんとかはまだちょっと話しにくいよ?」
「そっか、それはそれで大変そうね」
「ふふ。でもきらなちゃんはそのままで大丈夫だと思うよ。だってかわいいもんきらきらしててかわいいって思う」
「そう? ならいいんだけどさ。最近ふと悩むんだよね。なんでこうなっちゃうんだろうって」
「いつか自然に話せるようになるよ。きらなちゃんだもん」
よしよし。私はきらなちゃんの頭を撫でた。ツインテールの片方には今朝私があげたシュシュがついている。嬉しい。
「そうだ、私のお父さんの話はどうでもいいんだった!」
「そうなの?」
「そうだよ。たかしちゃんのお話をするんだよ!」
「私の話? またただしくんとのお話?」
「ちがーう! そうじゃなくって! 学校のお話!」
「あ、学校のお話か」
「そうだよ! 今日からたかしちゃん久しぶりに学校に来たんだから! ねえ、どうだった? 怖かった?」
「うん。怖かった。ちょっと怖かった。また明日行くんだって思ったらちょっと怖いけど。でも。楽しいの方が勝ってた! きらなちゃんはずっと近くにいてくれるし、隣のクラスにはただしくんがいるし、日向さんたちは何もしてこなかったし、思ってたよりうんと怖くなかったよ! 楽しかった! 授業があんなに楽しかったのは初めてだよ!」
「よかったー」
きらなちゃんは大きく胸を撫で下ろした。
「たかしちゃん明日は来ないって言ったらどうしようって思ってたの」
「明日も行きます! 今日のところで待ち合わせね! 一緒に行こうね!」
「もちろんだよ! 絶対遅刻しない!」
「本当かなあ、怪しいなあ」
きらなちゃんは前にも遅刻したことがあったからなあ。
「うっ、たかしちゃんの目が鋭い……」
「ふふふ、私も絶対遅刻しないからね!」
「うん! そういえばさあ。優子、どうしようね」
「根波さんだよね。私はちゃんとお話したいなあ」
「学校でも言ったけど、たかしちゃんをいじめた相手だよ? それなのに?」
「うん、私に謝るってことは、悪いことしたって思ってるってことだと思うの。それを許せるのは私だけだし、ちゃんとお話ししたい。もしかしたら根波さんにも事情があるかも知れないし」
「たかしちゃんをいじめなきゃいけない理由ってなにさ」
「さあ、わかんないけど。なんかあるのかも……」
「理由ねえ。まあたかしちゃんがそういうならいいけどさ」
「でもね、一つ問題があって……」
「問題?」
「根波さん、ずっと日向さんたちと一緒にいるから。話しかけられない」
「確かに、今日もずっと一緒にいたもんね」
「うん、流石に日向さんたちと話すのは怖いから。でも根波さんとは話したい」
「ということはタイミングを見計らわないとね。優子が一人になった所を一気に襲い掛かろう」
「あはは、襲い掛かるってきらなちゃん物騒だよ。そんなことしないよう」
「まあでもタイミングは本当に見計らわないとね。いつ話しかけられるかわかんないわね、これじゃあ」
「そうだねえ。早く話しかけたいなあ」
「私はたかしちゃんと話せればそれでいいけどね」
「私も、本当はきらなちゃんとお話しできればそれでいいけど、でも気になっちゃったから」
「たかしちゃんは真面目ねえ」
「私は真面目だよう。あ、そうだ、着替えないと。ちょっと待っててね」
私は座布団から立ち上がって、引き出しから長袖のワンピースを出した。




