きらなちゃんには負けたけど、私には勝った!
「たーかしちゃん! ねー! 帰ろっ!」
「うん、帰ろっか」
ついに無事学校が終わった。あとは帰るだけだ。
「さっさと帰って遊ぼう!」
ここまで何事もなく学校生活を送れたのはきらなちゃんのおかげ。私はそう思った。
下駄箱の中はなんともない。いじめもない。本当に何にもなかった。多分明日も明後日もなんともないんだ。私はるんるん気分で靴を履いた。
「ねえ、きらなちゃんち寄るんでしょ?」
「うん、私着替えたいしね。制服も好きだけど私服の方が気持ちが上がるの」
「うんうん、わかる。私もセーラー服好きだけど、ワンピースとかお気に入りのお洋服着る方が気分が上がる!」
「でしょー? だから着替えさせてー」
「うん。その間、私は公園で待ってるね」
「うち入ってもいいんだよ?」
「入りたいなーとは思うけど、ちょっとだけだから我慢するの。そしたら次行った時がうんと楽しいから!」
「そかそか。じゃあ公園で待ってて」
きらなちゃんのお家の前に着くと、きらなちゃんは「待っててね! 絶対だよ!」っていって家の中に入っていった。
私はぎーこぎーこと前に後ろにブランコを漕いだ。
きらなちゃんまだかなあ。今日はどんなお洋服着てくるんだろ。やっぱお腹の出てるお洋服かなあ。そろそろ寒くなってきたからきらなちゃんのお腹が心配だ。
そういや昔、ブランコから靴飛ばしたっけ。今でもできるかな。
一生懸命にブランコを漕いで、勢いをつけて靴を飛ばしてみた。
もうそれは見事に私の後ろに飛んでいった。誰かに見られてたら絶対に笑われてたと思う。
むうう。悔しい、もう一回。
けんけんで靴を取りに行って、もう一度ブランコを漕いだ。この前きらなちゃんが漕いでたくらい思いっきり。とまではいかないまでも、できるだけ、必死に漕いで靴を飛ばした。
飛ばした靴はぴょーんと真上に飛んで、目の前に落ちた。
「わっ……」
もうちょっとで自分の頭に当たるところだった。危なかった。でももうちょっと、もうちょっとで前に飛ばせそうだ。次こそ、次こそ前に飛ばすんだ。
私はもう躍起になって靴を飛ばした。三回目の挑戦で、ついにブランコを囲む柵を越えることができた。
やった!
やったやった!
「たかしちゃーん、お待たせー」
「あ、きらなちゃん。おかえりなさい」
「ふふ、おかえりって。あれ? たかしちゃん靴は?」
「あ、えっと……。飛ばしたの」
私はぶらぶらと靴下だけの足を揺らしながら返事をした。
「ああー! 靴飛ばししてたの? あ、ほんとだ。たかしちゃんの靴みっけー。よーし、たかしちゃんはあそこね。じゃあ私と勝負だ!」
「えええ。勝負? 絶対負けるよう」
絶対負ける。
私の言った通り、負けた。きらなちゃんはすごい勢いをつけて靴を飛ばした。それはすごいスピードで公園の外まで飛んでいった。
「いえーい! 私の勝ち!」
「き、きらなちゃん凄すぎるよう。こんなの絶対勝てっこないよ」
「へっへっへ。たかしちゃんはまだまだだなあ。よいしょっと」
きらなちゃんはけんけんで私の靴を取ってきてくれた。
「あ、ありがと」
でも、私は私の中で目標を達成できたもん。きらなちゃんには負けたけど、私には勝った!
「じゃ、いこっか」
「うん。って、きらなちゃん靴は?」
「履くよー。一緒に行こ。公園の外まで行っちゃったし」
手を繋いで、きらなちゃんはけんけんで公園の外まででた。
「よしっと。オッケー、やっと歩けるわ。さ、いこっかたかしちゃん」
なんだか、きらなちゃんがすごくカッコよく見えた。




