それか外持ってって水で洗う?
「おはよう、ございます」
ざわざわと教室がどよめいた。私が久しぶりに登校してきたからだってすぐにわかった。でも、怖くなかった。きらなちゃんが手を握ってくれているから。きらなちゃんがそばにいてくれているから。全然怖くなかった。教室の中には日向さんたちがいて、私のことをまん丸の目で見ていた。
「ほら、たかしちゃんの席ここだよ」
「変わってないんだね」
きらなちゃんは一番後ろの窓際の席に私を案内してくれた。
「教司はあんま席替えしたくないらしいの。なんか誰がどこに座ってるか覚えるの苦手なんだって」
「そうなんだ。でもここでよかった。ここの席ならきらなちゃん近くだもん」
「私あそこだもんねー」
私の席がある列の右の前から二番目がきらなちゃんの席だった。ちょっと遠いし、授業中におしゃべりはできないけど、すぐそこにいるっていう安心感があった。
「うわあ、まだ砂だらけだ。これどうしたらいいかなあ」
私の机の中は日向さんたちが詰めた土のせいで泥だらけだった。ちょっと机を揺らすと砂がポロポロ落ちてくる。
「雑巾で拭く? でも綺麗にはなりそうにないねえ。先生にいって机変えてもらうとか?」
「先生にかあ、でも心配させちゃうだろうからなあ。なんでこんな事になってるんだ? って。まあこのままでいいや。机の中使えなくてもそんなに大変じゃないし。全部カバンに入れちゃえば問題ないから」
「そ? それか外持ってって水で洗う?」
「えええ? 机を? 洗うの?」
きらなちゃんはとんでもないことを思いつくなあ。ふふふ。
「トイレとかのホースでジャバジャバっと」
「それは流石に先生に怒られちゃうよ」
「そっか。また洗いたくなったら言って。手伝ってあげるから」
「うん」
カバンからペンケースを取り出して、机の上に置いた。
「あ、いま忠のこと考えたでしょ」
「え、なんでわかるの? ねえねえ。なんでいっつもわかるの?」
「内緒よ。絶対に内緒。後多分忠はもう学校に来てると思うわよ。どうする? 隣の教室行ってみる?」
行ってみたい。けど、隣のクラスの人に何しに来たんだって思われそう。
「……やめとく。ただしくんから来てくれるの待ってる」
「もう、奥手なんだから」
「きらなちゃんに言われたくないよう」
「あ、そうだ。たかしちゃんは知らないかもしれないけれど、たかしちゃんと忠が付き合ってるってもう二年の全員が知ってるからね? 今更隠れたって無駄だからね?」
「えええ、そうなの? な、なんで……」
「私が言いふらした」
「えええ!」
「いやね、私が言いふらしたって言うか。普通に忠にたかしちゃんと付き合ってどうなのって話を向こうのクラスでしたら、口の軽い山下って男子にそれを聞かれて、聞いた山下が他の人に言いふらしたって感じなんだけどね? ごめんね」
きらなちゃんは片目を瞑って舌を出した。
「もうー。恥ずかしいから内緒にしよって思ってたのに! うう、ってことは今ここにいる人みんな知ってるんだ」
「そういう事になるわね」
みんなの視線がさっきより鋭くなった気がした。
「きらなちゃんのばかー!」
「でももう取り返しはつかないからね。堂々といちゃいちゃしなさい」
「そんなことはしないよう」
うう、きらなちゃんなんてことしちゃってるの。まさかそんな事になってるなんて。絶対隠し通そうって思ってたのに。隠し通すどころかみんなに知られてるなんて……。恥ずかしすぎるよう。
「ま、この話はこれで終わりましょ。はい。しゅーりょー」
「ばかばかー。終了じゃないよう」
「あ、忠!」
「え? どこ?」
「嘘よ」
「もー! きらなちゃんのばかー!」
私はポカポカときらなちゃんを叩いた。




