これ、約束のシュシュ
「なになに?」
私はカバンの中から一つのシュシュを取り出した。白地に赤い星が散りばめられたシュシュだ。きらなちゃんは今、白地に赤い水玉のシュシュをつけている。そのシュシュが似合っていると思ったから、デザインはほとんど変えなかった。このシュシュはきらなちゃんのために私が作ったただ一つのシュシュだ。
「これ、約束のシュシュ。私がちゃんと作ったんだよ。きらなちゃんにあげる。遅くなってごめんね」
「わあ、星柄だ。かわいい。ねえ、ほんとにいいの? もらってもほんとにいいの?」
「いいんだよ。だってきらなちゃんのために作ったんだもん」
「やったあ! 絶対大事にする。私の宝物にする! ねえ、つけていい? つけていい?」
「うん、いいよ。つけてつけて!」
きらなちゃんは右の髪を結んでいたシュシュをとって、私があげた星のシュシュをつけた。
うん、やっぱり、思った通り、似合ってる。よかった。似合ってよかった。
「どう? 似合ってる?」
「うん! すっごく似合ってるよ!」
「わーい! 学校着いたらトイレの鏡で確認しよ! たかしちゃーん! ありがとねー!」
「ううん、いつものお礼だよ! 私にはこんなことしかできないから……。きらなちゃん、いつもありがとう」
「こちらこそいつもありがとう!」
きらなちゃんは私にぎゅうっと抱きついた。ほっぺがぷにっとひっつく。
「えへへ」
久しぶりの通学路をきらなちゃんと手を繋いで歩いた。きらなちゃんと喋りながら歩いていると、あっという間に学校の前にたどり着いた。怖くて足が止まってしまった。
「たかしちゃん、大丈夫?」
「う、うん、大丈夫」
大丈夫だと思っているのに、足が止まって動かない。
「無理なら帰ってもいいんだよ? 私が家まで送っていってあげる」
「ううん、大丈夫。大丈夫だから」
怖くない。大丈夫。絶対に大丈夫だから。きらなちゃんがいるんだ。
「きらなちゃん。いこ」
私はきらなちゃんの手を握って走った。勢いで行ったら行けると思った。
「わあ、たかしちゃん!」
私は走って走って、下駄箱まで走った。
「はあ、はあ」
「もう、びっくりしたあ。走るなら走るっていってくれればよかったのに」
なんか私が先に走り出したのに、途中からきらなちゃんに手を引かれて走ってた気がする。
「ふふふ、学校入れた。大丈夫。……うん、怖くないよ」
「よかった。よかったねたかしちゃん!」
きらなちゃんが両手を掴んで飛び跳ねて喜んでくれた。私も嬉しくて一緒になって飛び跳ねた。だけど、ふっと我に返って周りの目が気になってゆっくりと私は飛び跳ねるのをやめた。
「後は教室に行くだけだね」
「うん。きらなちゃん、一緒にきてね」
「もちろんだよ! そもそも同じクラスでしょ!」
「そっか、そうだった」
靴を履き替えて階段を登ってA組の教室に向かう。この上履き履くの、すごく久しぶりだ。なんだかひんやりする気がする。私のこと、待っててくれてありがとう。
「あ、ちょっと待って、トイレ寄らせて?」
「うん」
きらなちゃんはトイレに入っていった。私はなんだか一緒に入るのが恥ずかしくて外で待っていることにした。
「わあ! すごいすごい! かわいい! たかしちゃんありがとー!」
きらなちゃんが走って飛びついてきた。
「うわあ! こけちゃう。こけちゃうよう」
「おとと、ごめんごめん。でも、たかしちゃん、すっごいかわいいよこのシュシュ。ほんとにありがとう」
「うん、大事にしてね。きらなちゃんのためにいっぱい想いを込めて作ったからね!」
「うん、すっごい大事にする! 私の宝物だよ!」
きらなちゃんはまた私のことをぎゅーっとした。
「ふにゃあ」
「じゃ、行こっか」
「うん、行こ」
「おはよー!」
私の手を引いて、きらなちゃんがクラスメイトに挨拶をしながら教室に入った。




