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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんと新しい学校
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いつも通りの日常

 月曜日の朝、私は六時きっかりに目覚まし時計に起こされて、眠い目を擦りながら顔を洗った。居間に入ると鮭のいいにおいがした。


「おはよー」

「たかしちゃんおはよー」

「お姉ちゃんおはよー」


 天はすでに自分の場所に座っていた。

 昨日の野球が楽しかったらしく、どうやら野球を習うことにしたらしい。


 運動神経がいいといいな。


 私も縫い物の習い事とかならしてみたい。でも、縫い物の習い事なんて近くにはなかった。そもそもあるのかどうかもわからない。


 鮭の塩焼きとお味噌汁と少量のご飯を食べて、セーラー服に着替えた。


「いってきます」


 いつも通りの日常。先週の一週間と何にも変わらない。


 通学路も、何にも変わらない。まばらに増えてくる生徒たちはいつしか大勢になって、学校に飲み込まれていく。私もその中の一人だった。

 上履きに履き替えて、教室に入った。挨拶はしない。もう、私から声を掛けることは出来なかった。出来ないことだと諦めた。黙って教室に入ってきて席についた私に誰も近寄らなかった。

 私とみんなとの間にある空気の層が一層分厚くなっているような気がする。


 担任の雲藤先生の朝のホームルームが終わって、社会の授業が始まった。社会の授業は覚えないといけなく大変だと思うけれど、予習をしてきているからかそこまで難しくはなかった。

 だから黒板に答えを書く人に当てられた時も、ドキドキしたけれど上手くこなせた。


 社会が終わった後の休憩時間は、早く終われと思いながらただ席に座っているばかりだった。長い休憩時間を乗り越えて、二時間目の国語も難なくこなせた。私はもしかしたら勉強が得意なのかもしれない。ちょっとだけ得意げになった。

 そういえば赤点と言われるものを取ったことがない。

 大体いつも八〇点から九〇点くらいだ。


 でもそうか、みんながお友達と遊んでいる間、私はやることがなくてお勉強をしているんだ。そうじゃなかったら勉強なんて得意じゃなかったかもな……。


 暗い気持ちを振り払うように、頭を横にぶんぶんと振った。


 二時間目の国語が終わって中休みに入った。実は二時間目の途中からおトイレに行きたくて仕方がなかった。私は周りにバレないようにこっそりとおトイレに行った。


 静かに教室から出て廊下を左に行くと、男女に分かれたトイレがある。私は女子トイレの個室の一番奥に入った。一番奥の方がなんだか安心するからだ。

 おトイレをして手を洗って、ピンクの花柄のハンカチで手を拭きながら教室に戻ると、なんだか教室の中の空気に違和感を感じた。


 少し教室の空気が浮ついていた。


 何より、教室に入ってきた私を見て笑う人が多かった。


 すごく嫌な気持ちになったけれど、私は知らん顔をしてそそくさと自分の席に戻った。


 私の机の上には一冊のノートが開かれて置かれていた。


 私の目からは自然と涙が一気に溢れ出した。


 ノートにはたくさんの悪口が書かれていた。手に取ってみると、そのノートは私の国語のノートだった。


『男女』


『都会の菌』


『学校くんな』


『死ね』


『消えろ』


 他にもいっぱい、ノートのいろんなページに悪口が油性ペンで書かれていた。


 もう、この学校でいじめられる事はないと思っていた。


 だって、先週は何にもなかった。誰も私に近づかなかった。私はひとりぼっちだった。だからてっきりもういじめられないものだと思っていた。でも、それは間違いだったらしい。私とみんなとの間にあった分厚い空気の層が、何か尖ったものでプスリと刺され、空気が抜けていくような感覚がした。

 誰かはわからないけれど、このクラスの誰かとの距離がグッと縮まった。


 いじめという行為によって。

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