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たかしちゃん  作者: 溝端翔
第三部 たかしちゃんと登校
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私の新しい第一歩が雨の日じゃなくて本当によかった

 九月の空模様は夏の色から秋の色へと移り変わっているような気がする。眩しいくらいの晴天。私の新しい第一歩が雨の日じゃなくて本当によかった。


 家を出るときに聞いたお母さんのいってらっしゃいを思い出しながら、私は中学校を目指して歩いた。


「きらなちゃーん!」

「たかしちゃーん! おはよう!」


 通学途中の交差点で、私は友達のきらなちゃんと待ち合わせをしていた。きらなちゃんは私をいじめから助けてくれた大切な友達で、一番の親友だ。金髪のツインテールで、セーラー服の胸当てを外して谷間を出してお化粧もしているけれど、不良じゃない。とっても心優しい女の子だ。


「きらなちゃん、ちゃんと朝起きれた?」

「うん! 昨日めっちゃ早く寝たもん。十二時だよ。十二時。すっごい早寝でしょ」

「私は十時に寝てるからなあ。あんまり早寝だとは思わないなあ」

「そんなあ。たかしちゃん辛辣だなあ」

「でも、きらなちゃんが遅刻しなくてよかったよ。流石にまだ私一人で学校に行くのは不安だもん」


 私は今年の五月の終わり頃からずっと学校を休んでいた。それは、日向さんたちに酷くいじめられたからだ。でも、私が休んでいる間、毎日のようにきらなちゃんが遊びにきてくれたし、たまにただしくんも。だから、寂しいなんてことはこれっぽっちもなかった。


 それから、実は、私はもう日向さんたちにはいじめられないんじゃないかって思っている。

 私はあの日。水風船を投げ合ったあの日、キッパリと日向さんたちに『友達になれません』と言った。日向さんたちは何か言いたそうな顔をしていたけれど、何も言わずに帰っていった。それから夏休みに遊びに行ったプールで偶然出会った時も、日向さんたちは私に何もしなかった。私一人だったのに、何にもしなかった。だから大丈夫なんじゃないかって思ってる。

 思ってる。思ってるけど、やっぱりいじめられるんじゃないかって、心のどこかではそう思ってしまう。日向さんたちにはそれだけのことをされたし、決して忘れることはできないし、とても怖かった。

 でも、きらなちゃんが私を守ってくれるっていってくれている。守ってくれるって言ってもらってから三ヶ月も立ってしまったけど、やっと、きらなちゃんに応えたいって心の底から思えるようになった。


 お母さんは学校になんて行かなくていいっていってくれたけど、やっぱり、学校には行きたい。きらなちゃんと遊びたいし、ちゃんと授業を受けたり部活に行ったりして、笑いたい。


「たかしちゃんが久しぶりに学校に来るんだもん。もう絶対遅刻しないよ。私はたかしちゃんを守るんだから」

「ありがとう、きらなちゃん」


 私はきらなちゃんの手をぎゅっと握りしめた。


「えへへ。それに隣のクラスにはただしもいるしね。そういえば昨日はどうだった? 楽しかった?」

「うん、楽しかったよ!」

「ただしと何したの?」

「えっとねえ、ジャスコに行ってクレープ食べたの」


 ただしくんって言うのは、私のか、彼氏。恋人。今まで女の子の友達もできなくて、男の子を好きか嫌いかなんてずっと考えたことなかったけど、ただしくんとお友達になって、初めて男の子が好きかもしれないって思った。ただしくんは背が高くてバスケ部で、優しくて、かっこよくて。それからいじめられていた私を助けてくれたもう一人の人。私の大切な人。きらなちゃんと同じくらい大切な人。


「あー、抹茶とほうじ茶のクレープ食べたいって言ってたもんね。どっちが美味しかった?」

「うーん、どっちも美味しかったけど、ほうじ茶の方が美味しかったかなあ。ただしくんは抹茶の方が好きっていってたから、私はほうじ茶の方を多く食べたよ」

「いいなあ、楽しそう。デートかあ……」

「きらなちゃん告白すればいいのに」


 きらなちゃんの好きな人は、ただしくんのお友達の阿瀬蹴人くん。きらなちゃんとは幼馴染で、お家は隣同士。サッカーがとっても上手。


「私はしないよ。待ってるの。そんな恥ずかしいことできないよ」

「絶対両思いなのになあ」


 多分だけど、阿瀬君はきらなちゃんのことが好きなんだと思う。ただしくんに阿瀬君の好きな人を聞いても教えてくれないけれど、前に作ってもらった友達ノートの好きなもののところに綺羅名って書いてあったから、多分そうなんだろうって思ってる。


「もっとちゃんと絶対! って確定しないと絶対無理!」

「そっかあ、もし付き合ったらダブルデートとかしようね」

「たかしちゃんってそういうの恥ずかしがってたタイプだったよね。ほんと、たかしちゃん変わったよね」

「うん、変わった。自分でもそう思う。きらなちゃんのおかげだよ。きらなちゃんが私を変えてくれたんだよ。学校だって行こうって思えたのはきらなちゃんのおかげだもん」

「私ー? 何にもしてないけどなあ」

「ううん。ほんとに、きらなちゃんのおかげだよ」


 絶対に絶対。きらなちゃんのおかげだ。


「じゃあ、お礼に今度また私の服着てくれる?」

「ううっ、ま、またあ? きらなちゃんのお洋服恥ずかしいんだもんなあ」

「いいじゃん、今度私の服でジャスコ行こ!」

「わ、わかった……。あ、そうだ。きらなちゃん。お礼で思い出した。渡したいものがあるの」

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この幸せな時間が、ずっとこのままならいいのに泣…
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