表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんとプール
258/275

現実はそんなにうまくいかないみたいだ

「みんな、起きて。もう次で降りるわよ」


 お母さんの声で目が覚めた。眠い目を擦る。きらなちゃんもれいかちゃんも。眠っていた。私は二人の方を叩いて起こした。


「きらなちゃん、れいかちゃん、次降りるって」

「ふえ、つぎ?」

「うん、次だって」


 縫合くんが、ただしくんと阿瀬君とここちゃんを起こしていた。


「縫合くん寝てないの?」

「うん、僕はそんなに疲れてなかったからね」


 縫合くんも結構みんなと同じくらい遊んでたと思ったのに。みんなの中で一番元気なんだ。


「ちょっと、ここ、僕の服に涎垂らすのやめてくれない?」

「ああ、ごめんごめん。だってスイカが美味しくって」


 ふふふ、スイカなんて食べてないのに。何の夢見てたんだろう。でもいいなあ、スイカ食べたいな。


「よっし、みんな起きたわね!」


 まだ眠いのか目を擦りながらきらなちゃんが言った。


「おう」

「起きたぞ」

「僕は寝てないけどね」

「僕も寝てないよ!」

「真っ先に寝てただろ!」

「しー。ここは電車の中よ。静かに」

「ごめん……。って一番最初に大声上げたのお前だからな」

「いいのよ。ちょっとくらい」

「だめだよきらちゃん。ちょっともだめ」

「あらそう? まあいいわ、次の駅で降ります。みんなちゃんと降りるように!」


「はーい」とみんなが静かに返事をした。


 電車はすぐに停まって、みんなでゾロゾロと降りた。


「よし、全員いるわね」


 きらなちゃんがみんないるか確認した。私もみんながいるか確認した。大丈夫。ちゃんとみんないる。ここちゃんもいる。


「さ、じゃあ、帰りますかー。自転車漕ぎながら寝ないようにね」

「そんなことにはなんねえよ」

「そう? そんなに眠そうなのに?」

「もう十分寝たって。なあ?」

「なあって言われてもなあ。まあ寝たけど。俺はまだ眠いかなあ。はああ」


 ただしくんが大きなあくびをした。


「ただしくん、絶対。自転車漕ぎながらねちゃだめだよ?」

「わかってるって」

「ほら、嫁が心配してるぞ」

「嫁じゃねえよ」


 嫁だって。阿瀬君のばか。まだそんなんじゃないもん。でも、ただしくんだってそんなにすぐ否定しなくったっていいのにな。

 改札を出て、駐輪場に着くと、れいかちゃんが自転車に跨って


「じゃ、僕こっちだから」と言った。


 そうだ。れいかちゃんだけは、みんなと方向が違うんだ。


「うん、また遊ぼうね」

「たかちゃんのお母さん、今日はありがとうございました」

「いいのよ。またうちにいらっしゃいね」

「はい! じゃあたかちゃんまたね! きらちゃんもこっこちゃんも、みんなもまたね!」

「またねー!」


 れいかちゃんが一番に帰って行った。背中がどんどん小さくなり、曲がり角を曲がって見えなくなった。


「さ、私たちも帰ろっか。邪魔にならないように広がり過ぎないようにねー!」

「はーい」


 まだ空は青かった。こんな時に夕暮れ空が見れたら、ドラマみたいでいいのにって思った。でも現実はそんなにうまくいかないみたいだ。


 またみんなでプールに行きたいな。プールだけじゃない。今度はみんなでジャスコに行きたい。みんなでお買い物をしたい。

 夏休みはもうすぐ終わる。みんなのお盆休みなんてもっと早く終わる。お盆休み中、一回くらい、ただしくんと二人きりで遊べたらいいな。その時はきらなちゃんにごめんなさいってしないとな。


 もうほとんど乾いた髪に、自転車の風が当たって涼しい。


 隣で自転車を漕ぐきらなちゃんは笑っていた。


 後で自転車を漕ぐみんなは笑っていた。


 やっぱり訂正。


 夕焼けなんかなくったって、ドラマみたいだと思った。私にとって特別で。大切な宝物だと。そう、思った。


「また行こうね! きらなちゃん」


 風が吹いて前髪が後ろに全部流れていく。


「うん! また来年!」


 来年かあ……。


 遠いなあ。早く、来年が来ないかなあ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ