現実はそんなにうまくいかないみたいだ
「みんな、起きて。もう次で降りるわよ」
お母さんの声で目が覚めた。眠い目を擦る。きらなちゃんもれいかちゃんも。眠っていた。私は二人の方を叩いて起こした。
「きらなちゃん、れいかちゃん、次降りるって」
「ふえ、つぎ?」
「うん、次だって」
縫合くんが、ただしくんと阿瀬君とここちゃんを起こしていた。
「縫合くん寝てないの?」
「うん、僕はそんなに疲れてなかったからね」
縫合くんも結構みんなと同じくらい遊んでたと思ったのに。みんなの中で一番元気なんだ。
「ちょっと、ここ、僕の服に涎垂らすのやめてくれない?」
「ああ、ごめんごめん。だってスイカが美味しくって」
ふふふ、スイカなんて食べてないのに。何の夢見てたんだろう。でもいいなあ、スイカ食べたいな。
「よっし、みんな起きたわね!」
まだ眠いのか目を擦りながらきらなちゃんが言った。
「おう」
「起きたぞ」
「僕は寝てないけどね」
「僕も寝てないよ!」
「真っ先に寝てただろ!」
「しー。ここは電車の中よ。静かに」
「ごめん……。って一番最初に大声上げたのお前だからな」
「いいのよ。ちょっとくらい」
「だめだよきらちゃん。ちょっともだめ」
「あらそう? まあいいわ、次の駅で降ります。みんなちゃんと降りるように!」
「はーい」とみんなが静かに返事をした。
電車はすぐに停まって、みんなでゾロゾロと降りた。
「よし、全員いるわね」
きらなちゃんがみんないるか確認した。私もみんながいるか確認した。大丈夫。ちゃんとみんないる。ここちゃんもいる。
「さ、じゃあ、帰りますかー。自転車漕ぎながら寝ないようにね」
「そんなことにはなんねえよ」
「そう? そんなに眠そうなのに?」
「もう十分寝たって。なあ?」
「なあって言われてもなあ。まあ寝たけど。俺はまだ眠いかなあ。はああ」
ただしくんが大きなあくびをした。
「ただしくん、絶対。自転車漕ぎながらねちゃだめだよ?」
「わかってるって」
「ほら、嫁が心配してるぞ」
「嫁じゃねえよ」
嫁だって。阿瀬君のばか。まだそんなんじゃないもん。でも、ただしくんだってそんなにすぐ否定しなくったっていいのにな。
改札を出て、駐輪場に着くと、れいかちゃんが自転車に跨って
「じゃ、僕こっちだから」と言った。
そうだ。れいかちゃんだけは、みんなと方向が違うんだ。
「うん、また遊ぼうね」
「たかちゃんのお母さん、今日はありがとうございました」
「いいのよ。またうちにいらっしゃいね」
「はい! じゃあたかちゃんまたね! きらちゃんもこっこちゃんも、みんなもまたね!」
「またねー!」
れいかちゃんが一番に帰って行った。背中がどんどん小さくなり、曲がり角を曲がって見えなくなった。
「さ、私たちも帰ろっか。邪魔にならないように広がり過ぎないようにねー!」
「はーい」
まだ空は青かった。こんな時に夕暮れ空が見れたら、ドラマみたいでいいのにって思った。でも現実はそんなにうまくいかないみたいだ。
またみんなでプールに行きたいな。プールだけじゃない。今度はみんなでジャスコに行きたい。みんなでお買い物をしたい。
夏休みはもうすぐ終わる。みんなのお盆休みなんてもっと早く終わる。お盆休み中、一回くらい、ただしくんと二人きりで遊べたらいいな。その時はきらなちゃんにごめんなさいってしないとな。
もうほとんど乾いた髪に、自転車の風が当たって涼しい。
隣で自転車を漕ぐきらなちゃんは笑っていた。
後で自転車を漕ぐみんなは笑っていた。
やっぱり訂正。
夕焼けなんかなくったって、ドラマみたいだと思った。私にとって特別で。大切な宝物だと。そう、思った。
「また行こうね! きらなちゃん」
風が吹いて前髪が後ろに全部流れていく。
「うん! また来年!」
来年かあ……。
遠いなあ。早く、来年が来ないかなあ。




