ちゃんと帰れるよね
みんなに追いついたのはだいぶ時間が経ってからだった。追いついたというよりも、追い付かれたの方が正しい。私はもう途中で追いかけるのをやめた。壁に張り付いて、みんなが通り過ぎるのを待った。
合流した時にはきらなちゃんだけいなかった。しばらく待っていると、きらなちゃんが後ろから追いついてきた。
「たかしちゃん! もう、どこ行ったのかと思った!」
「きらなちゃんが早すぎるんだよう。私はもう諦めて待ってたの」
「それならそうと言ってよ。進むか戻るかすごい迷ったんだから。まあ進んだけど」
きらなちゃんたちには日向さんたちのことは言わないでおこうと思った。何もされなかったし、変な心配をかけたくないと思ったから。
それから流されたり、滑り台を滑ったり、普通のプールで追いかけっこをしたりして遊んだ。楽しい時間はあっという間に過ぎていき、気がつけば、閉園の時間が迫っていた。
お母さんのところに戻ると、お母さんはまた知らない男の人と喋っていた。
「お母さん!」
「え、お母さん?」
私が男の人をきっと睨むとその男の人は慌てて逃げるように去っていった。
「大学生なんだって」
「知らないよ! ばか!」
「いいじゃんか、お母さんだって暇なんだもん」
「知らない!」
荷物をまとめて、各々が自分の財布を受け取ると、更衣室に向かった。
濡れた体や髪を拭いて。タオルを巻いて着替える。帰りはきらなちゃんの服じゃなく、私が持ってきたワンピースだ。きらなちゃんもれいかちゃんもここちゃんも、タオルを巻かずに着替えていた。私はびっくりした。れいかちゃんもタオル巻かないなんて。
「れいかちゃん、タオル巻かないの?」
「部活の時とか巻かないしね。めんどくさいし。もう慣れちゃった」
私が一番遅かった。リボンは髪が濡れているからつけないことにした。それにしてもみんな可愛い服を着ていた。ここちゃんはお兄ちゃんのお下がりだって言っていた。でも可愛くて似合っていた。小さいタオルで髪を拭きながら更衣室を出ると、服を着たただしくんたちが待っていた。さっきまで裸だったからなんか変な感じがする。
「っさー、帰るか」
きらなちゃんと私を先頭に駅に向かった。くる時とは違って帰りは人がたくさんいた。
切符を買って、改札に通す。何の音もないから心配になる。
「うーん、電車来るまであと十七分もあるね」
「結構あるねえ」
十七時はまだ全然明るくて、暑かった。さっきまで気持ちよかったのに今は気持ち悪い汗をかく。でも、風は涼しかった。駅の中が日陰でよかった。
「帰り座れるかなあ」
「これだけ人がいたら無理そうね」
駅のホームにはたくさんの人がいた。みんなとはぐれないようにしないといけない。
「大丈夫だって。降りるところは決まってるんだから」
頭を撫でながらただしくんが言った。
そっか、そうだよね。降りるところは決まってるんだもんね。
うちわでも持ってくればよかった。手で仰いでも全然風が来ない。暑いなあ。
おしゃべりをして待っていると、やっと電車がきた。ゾロゾロと一斉に人々が電車に乗り込んで行く。私はみんなとはぐれてしまった。
少し離れたところにきらなちゃんを見つけたけれど、そこまで行けなかった。
大丈夫かな?
大丈夫だよね?
ちゃんと帰れるよね。
不安になりながらも涼しい電車に揺られていると、川﨑の駅で大勢が降りていった。
「きらなちゃん!」
私は急いできらなちゃんの元に駆け寄った。
「座れるね。座ろっか」
私はきらなちゃんとれいかちゃんの間に座った。
「ここから後五十分近くあるねえ。ふああ。いっぱい泳いだからか、涼しいからか眠たくなってきちゃった」
「私も。眠くなってきた。はわわ」
前に座っているここちゃんは縫合くんの肩を枕にしてすでに眠っていた。
「こっこちゃん見てると余計眠くなってくるね」
「そうだね、気持ちよさそうに寝てる。私も何だか眠たくなってきたなあ」
「寝てもいいわよ。降りる時になったらお母さんが起こしてあげるから」
「……あんまり信用できないなあ」
眠たくて話すのがゆっくりになる。
「お母さんは眠たくないもの。ほらほら、寝なさいな」
「はーい」
きらなちゃんが私に寄りかかってすうすうと寝息を立て始めた。
れいかちゃんもそれに倣って、私に寄りかかってすうすうと寝息を立て始める。
何だかドキドキする。もう動けない。ただしくんを見ると、ただしくんもうつらうつらしていた。
「なんで電車ってこんなに眠たくなるんだろうねえ」
目を閉じたままのきらなちゃんが言った。それ以降、きらなちゃんは眠ってしまって何も言わなくなってしまった。
私も、寝ようかな。
電車内にはまだ人がいたけれど。私は目を瞑った。
がたん。がたん。
体が揺れる。涼しい風が体に当たる。自分の両脇が、あったかい。
ああ、なんか。幸せだなあ。




