きらなちゃんはひっくり返ってプールにはまった
「昔からお金全然使わないもんね。でもお小遣い毎月三万円もらってるらしいわ」
「まじ? 俺三千円なんだけど、十分の一じゃん。ここの入場料も払えないんだけど。今回母さんには頼んでもらってきたけど」
「でもあんたお金なんて使わないでしょ? ずっとサッカーじゃん」
「まあな」
「たかしちゃんはいくらもらってるの?」
「私も三千円かなあ。高校生になったら五千円にしてくれるらしい。あとはお年玉貯金かなあ」
「まあそうだよねえ。私も同じだわ。私たちは服とか買うから大変よねえ」
「うん、服はたまにお母さんにおねだりして買ってもらう。高いからねえ。裁縫もするし、結構お金は使うかなあ」
「意外とたかしちゃんが一番お金使ってそうね」
「うん、そうかも。お裁縫って結構お金かかるんだよねえ」
「そうなんだな。縫うだけかと思ってたわ」
「ばかねえ、材料費ってものが必要なのよ」
「まあそりゃそうか」
れいかちゃんって本当にお嬢様なんだなあ。いいなあ。私もお嬢様が良かった。いろんなお洋服いっぱい買いたかったなあ。
「ばあっ!」
正面の水面かられいかちゃんが飛び出してきた。
「わあ、れいかちゃん」
「あははー、やっと追いついた。追いついたっていうか、追い抜かした? 私たちの方が早かったもんね。周回遅れだね」
「ばあっ」
きらなちゃんの前にここちゃんが顔を出した。
「ここ、それさっき麗夏で見たわよ」
「ちぇー、れいれいがやってたから僕もやってやろって思ったのに」
「全然ダメね、新鮮味に欠けるわ」
「くそー、こうなったら」
ここちゃんが潜って消えた。
「わ、ここ! ちょっと! やめなさい! ばか! こら! わああ!」
きらなちゃんはひっくり返ってプールにはまった。
「こらここ! 何で水着脱がそうとするの! そんなことしたらダメでしょ! 見えたらどうするの危ないわねえ」
浮かび上がってきたきらなちゃんがここちゃんに怒った。
脱がす?
脱がすって水着を?
「たかしちゃんも気をつけた方がいいかも」
「ええ。気をつけるって、どうやって。わああ、ここちゃんまって、ストップストップ」
ここちゃんが水の中から私のスカートごと水着を脱がせようとしてきた。
「ダメダメダメー!」
私は抵抗するために必死に暴れた。そしたらバランスを崩して、きらなちゃんと同じように水の中に落っこちた。
「あははー、僕の勝ちー」
「せいっ! 勝ちって何よ。脱げたらどうすんの」
「水の中だし見えないよ」
「そういう問題じゃないわよ! 大丈夫?たかしちゃん?」
「うう、お水飲んだ。でも大丈夫。何とか逃げ切れた」
足を浮かすとすうっと体が流されていく。足をついていても水に押されるように流されていく。さっきまでの浮き輪お姫様抱っこが終わってしまった。
「くっそー、ダメだったか!」
「ダメだったかじゃないわよ! 何すんのよ!」
「だって、シュートたち紐で縛ってあって脱がせられないんだもん」
「いや、蹴人たちのもダメよ。ここは公共の場よ? わかる? 公共の場!」
「コーキョーのば。うん、わかるよ」
「絶対わかってないでしょ。って、あんたたち何浮き輪に乗ってるのよ! 私たちの浮き輪でしょ?」
「交代だよ。ちゃんとぶつからないように操作してくれよー」
「あんたたちもお嬢様になりたいってわけね。お嬢様ってかお坊ちゃんか」
「私もう一周してくるね、ぶつからないように泳ぐの楽しいんだ」
「僕も! 僕もいく!」
「いこっかこっこちゃん」
ざぷんと潜ってれいかちゃんとここちゃんは泳いで行った。またしばらくしたら多分後ろから追い付かれることになる。
「一は? 行かなくていいの?」
「いや、二人についてくのはちょっと。無理があるかな。一回で相当な距離あるよこれ」
「確かに。このコース結構長いもんね。じゃあさ、蹴人の浮き輪操作してよ。私もちょっとは泳ぎたいし」
「いいけど」
「ほら、たかしちゃん、泳ご」
「いや、じゃあ俺はどうなるんだよ」
「忠は普通に浮き輪に入って流されてて。操作する人いなくなっちゃうから」
「ったく。俺のおぼっちゃまタイムなしかよ」
忠くんは浮き輪から転げ落ちて、普通に浮き輪を身につけて浮かんだ。
「んじゃ、私たちも泳いで行くから、ゆっくり流れててね。追いつけるように」
「はいよ」
「行こ、たかしちゃん」
きらなちゃんは私の手を引っ張った。




