何だかお嬢様になった気分だった
「当たり前じゃん。私そんなに肺活量ないし。ちゃんとパンパンに膨らませてね」
「頑張れよ」
ただしくんが阿瀬君の肩をポンと叩いた。
「何言ってんの。あんたは自分のうきわ膨らませるのよ。たかしちゃんのために」
「ええっ、俺がやんのかよ。俺別に使わねえよ」
「たかしちゃんが使うんだってば。ほら、さっさと膨らませる」
「ったく。何で俺が……」
文句を言いながら、二人は浮き輪に空気を吹き込んだ。最初は全然、微動だにしなかった浮き輪も、時間が経つにつれてどんどん膨らんできた。
「ほらほら、その調子その調子」
「が、頑張って」
「ただしはいいよな。応援してもらえて。俺なんて急かされるだけだぜ」
「いや、あんま変わらんだろ」
「そこ、喋ってないで膨らませる!」
「はーい」
しょぼしょぼだった浮き輪は、あっという間……ではなかったけれど、すぐに大きくパンパンに膨らんだ。
「これでいいだろ」
「完璧ね。やればできるじゃない」
「きらなちゃん、そこはありがとうでしょ」
「な……。あ、ありがとう」
「おう」
「じゃ、行きますか! 目指すは流れるプール!」
「おー!」
流れるプールに入ると、本当に水が流れていた。勝手にどんどん進んでいく。
「あのね、たかしちゃん、浮き輪にはこうやって乗るのよ。蹴人、操作してね。私勝手に流れていくから」
「はいはい」
きらなちゃんは浮き輪にお姫様抱っこしてもらうみたいに穴の中にお尻を入れて座った。さっきのスライダーみたいだ。
「たかしちゃんもほら、やってみ。大丈夫、忠が操作してくれるから」
「操作確定かよ」
「何、しないっていうの?」
「します。します」
「素直でよろしい」
私も浮き輪の穴にお尻を入れて浮き輪に座った。勝手に流れに合わせて流れていく。ただしくんが私の乗っている浮き輪を持ってくれた。
「ありがとう」
「お、おう」
「ねーたかしちゃん、手繋ごー」
「うん! いいよ!」
私はきらなちゃんと手を繋いだ。
自然と浮き輪が流れていく。誰かにぶつかりそうになったらただしくんと阿瀬君が避けてくれる。何だかお嬢様になった気分だった。
「れいかちゃんたちどこかなあ」
「多分後ろから追い付いてくるんじゃない。ゆっくり流れてましょー」
「そっか、じゃあ追いつかれるまで待ってよー」
波に揺られて何だか眠たくなってきた。足を前に向けて流されている。ただしくんは背中側で操作してくれてるから顔が見えない。だけど、隣にいるきらなちゃんの顔は見える。ふわっふわっと宙に浮いている気がする。私たち飛んでるかもしれない。
でも、これお尻だけがプールに浸かっているだけだからちょっと暑い気がする。
「ちょっと暑くなってきちゃった」
「確かに、流されるの気持ちいいけど全然プールに入れてないもんね。ちょっと、蹴人、忠、私たちに水かけて」
「ほぼお世話じゃん。まあいいけど」
ただしくんが私の頭に水をかけた。
「わああ!」
頭にかけるとは思ってなかった。びっくりした。
「気持ちいだろ、頭が一番冷えると思ってな」
「もっと体にもかけてー」
「マジで世話させられてるなこれ」
阿瀬君もきらなちゃんに水をかけていた。誰かにぶつかりそうになると浮き輪を操作して、避けたらまた水をかける。
「ていうかお前ら自分で水かけられるだろ」
「だって私たち手繋いでるもん。無理よ無理。片手なんて無理無理」
「お嬢様かよ」
「お嬢様は麗夏でしょ。いいなあお金持ちって。羨ましい」
「でも、あんま御城ってお嬢様って感じしないけどな」




