うん、その代わり今度
「いや、別にいらないって」
「仕方ないなあ。そんなに言うなら一口だけ食べていいよ」
「いや、いらないんだってば」
私はただしくんの前にソフトクリームを突き出した。
「何だよそれ、じゃあ一口だけもらうわ」
はむっとただしくんがソフトクリームを食べた。
「どう? 美味しい?」
「うん、美味しい」
「でもだめー。これは全部私のなんだから。私がただしくんに買ってもらったソフトクリームなのー」
「いいから早く食べないと溶けるぞ」
「そうだったそうだった。危ない危ない」
私はただしくんが食べたところをぺろっと舐めた。
「わっ」
「ん? どうした?」
「ううん、何もない」
間接キスだ。これ、こんなところで間接キスしちゃってる。わあーん、気づかなかった。そっかそりゃそうだよね。一つしかないソフトクリームをただしくんが食べたらそりゃ間接キスになっちゃうよね。
恥ずかしくて、私はしおしおとしおれていった。
「抱きついたと思えばソフトクリーム食べたいって言い出すし、思考読めって言い出したと思ったらソフトクリーム見せびらかしてくるし、そうと思ったら今度はなんだ。どうした。急に元気なくなってるけどどうした。俺なんかしたか?」
「ただしくんは何も悪くないの」
ソフトクリーム美味しい。コーンがサクサクしてる。ああ、美味しいなあ。
「顔真っ赤だぞ? 大丈夫か?」
「大丈夫! ちょっと、あっただけ」
「あったって何が」
間接キスとは言えない。こんな大勢がいる中で間接キスしちゃったなんて言えない。
「ううん、こっちの話なの。あーあ、たこ焼きまだかなあ」
「そうかい。たこ焼きもうすぐっぽいな。ほら、もうほとんどできて丸くなってる」
「ほんとだ。もうすぐだね。やっとだー。ソフトクリーム食べ終わっちゃうよ」
「ちょうどよかったな。あ、たこ焼きは奢らねえからな」
「うん、ちゃんと自分で買うよ」
「嘘だって。別に奢ってやってもよかったんだが。いいのか?」
「うん、その代わり今度ジャスコ一緒に行こ! 抹茶クレープとほうじ茶クレープが食べたいの!」
「オッケー。わかった。約束な」
「うん、約束」
私たちはたこ焼きを買って、みんなのところに戻った。手を繋いで戻ったら、れいかちゃんに「ヒューヒュー」って言われた。
そういえばお母さんがいることを思い出して慌てて手を離した。何だかお母さんに見られるのははずかしい。みんなに見られるのも恥ずかしいけど、それ以上に恥ずかしい気がした。
「あんたたち遅いわよ。みんな食べ終わっちゃってるけど」
「だってね、たこ焼き焼いててね。遅かったんだもん」
「まあいいわ、ゆっくり食べなさいね。時間はまだたっぷりあるんだから」
お母さんの横に座ると、ただしくんが私の隣に座った。
「いま何時?」
「今はねえ、十三時四分ね。閉園まであと四時間かしら」
「じゃあ早く食べないとね」
「いいって。大丈夫だって。こんだけあればいっぱい遊べるんだからゆっくり食べなって。それかあーんとかする?」
「わあ! しないよう! お母さんもいるし!」
さっきソフトクリームを一口あげたことを思い出した。あれも、あーんになるのかな。
恥ずかしさがぶり返してきた。
私はたこ焼きを大きな一口で頬張った。
美味しかった。金子さんのたこ焼きとはまた違ってトロトロで美味しかった。
「よーし、そういや浮き輪持ってきた人いる?」
「俺持ってきたけど一つだけだぞ」
「僕も持ってきたよー。お兄ちゃんに借りてきた」
「じゃあ浮き輪は二つかー。流れるプール行こうと思ったんだけど、私浮き輪レンタルしてこよっかな。浮き輪乗って流れたい。ただしはたかしちゃんと使うでしょ。ここはここが使うでしょ」
「僕泳ぐからいらなーい」
「私も泳ぐからいらなーい」
「僕も別にいいかな。立ってても流れてくだろうし」
「じゃあここ、浮き輪かして!」
「いいよー。じゃあ僕ら先に行ってるねー」
ここちゃんが走っていった。それを追いかけるようにれいかちゃんと縫合くんが走っていった。
「浮き輪、膨らませないとね。はい、男子の出番よ」
「俺が膨らませるのかよ」
阿瀬君はびっくりした顔できらなちゃんを見た。




