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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんとプール
253/274

うん、その代わり今度

「いや、別にいらないって」

「仕方ないなあ。そんなに言うなら一口だけ食べていいよ」

「いや、いらないんだってば」


 私はただしくんの前にソフトクリームを突き出した。


「何だよそれ、じゃあ一口だけもらうわ」


 はむっとただしくんがソフトクリームを食べた。


「どう? 美味しい?」

「うん、美味しい」

「でもだめー。これは全部私のなんだから。私がただしくんに買ってもらったソフトクリームなのー」

「いいから早く食べないと溶けるぞ」

「そうだったそうだった。危ない危ない」


 私はただしくんが食べたところをぺろっと舐めた。


「わっ」

「ん? どうした?」

「ううん、何もない」


 間接キスだ。これ、こんなところで間接キスしちゃってる。わあーん、気づかなかった。そっかそりゃそうだよね。一つしかないソフトクリームをただしくんが食べたらそりゃ間接キスになっちゃうよね。


 恥ずかしくて、私はしおしおとしおれていった。


「抱きついたと思えばソフトクリーム食べたいって言い出すし、思考読めって言い出したと思ったらソフトクリーム見せびらかしてくるし、そうと思ったら今度はなんだ。どうした。急に元気なくなってるけどどうした。俺なんかしたか?」

「ただしくんは何も悪くないの」


 ソフトクリーム美味しい。コーンがサクサクしてる。ああ、美味しいなあ。


「顔真っ赤だぞ? 大丈夫か?」

「大丈夫! ちょっと、あっただけ」

「あったって何が」


 間接キスとは言えない。こんな大勢がいる中で間接キスしちゃったなんて言えない。


「ううん、こっちの話なの。あーあ、たこ焼きまだかなあ」

「そうかい。たこ焼きもうすぐっぽいな。ほら、もうほとんどできて丸くなってる」

「ほんとだ。もうすぐだね。やっとだー。ソフトクリーム食べ終わっちゃうよ」

「ちょうどよかったな。あ、たこ焼きは奢らねえからな」

「うん、ちゃんと自分で買うよ」

「嘘だって。別に奢ってやってもよかったんだが。いいのか?」

「うん、その代わり今度ジャスコ一緒に行こ! 抹茶クレープとほうじ茶クレープが食べたいの!」

「オッケー。わかった。約束な」

「うん、約束」


 私たちはたこ焼きを買って、みんなのところに戻った。手を繋いで戻ったら、れいかちゃんに「ヒューヒュー」って言われた。

 そういえばお母さんがいることを思い出して慌てて手を離した。何だかお母さんに見られるのははずかしい。みんなに見られるのも恥ずかしいけど、それ以上に恥ずかしい気がした。


「あんたたち遅いわよ。みんな食べ終わっちゃってるけど」

「だってね、たこ焼き焼いててね。遅かったんだもん」

「まあいいわ、ゆっくり食べなさいね。時間はまだたっぷりあるんだから」


 お母さんの横に座ると、ただしくんが私の隣に座った。


「いま何時?」

「今はねえ、十三時四分ね。閉園まであと四時間かしら」

「じゃあ早く食べないとね」

「いいって。大丈夫だって。こんだけあればいっぱい遊べるんだからゆっくり食べなって。それかあーんとかする?」

「わあ! しないよう! お母さんもいるし!」


 さっきソフトクリームを一口あげたことを思い出した。あれも、あーんになるのかな。

 恥ずかしさがぶり返してきた。

 私はたこ焼きを大きな一口で頬張った。

 美味しかった。金子さんのたこ焼きとはまた違ってトロトロで美味しかった。


「よーし、そういや浮き輪持ってきた人いる?」

「俺持ってきたけど一つだけだぞ」

「僕も持ってきたよー。お兄ちゃんに借りてきた」

「じゃあ浮き輪は二つかー。流れるプール行こうと思ったんだけど、私浮き輪レンタルしてこよっかな。浮き輪乗って流れたい。ただしはたかしちゃんと使うでしょ。ここはここが使うでしょ」

「僕泳ぐからいらなーい」

「私も泳ぐからいらなーい」

「僕も別にいいかな。立ってても流れてくだろうし」

「じゃあここ、浮き輪かして!」

「いいよー。じゃあ僕ら先に行ってるねー」


 ここちゃんが走っていった。それを追いかけるようにれいかちゃんと縫合くんが走っていった。


「浮き輪、膨らませないとね。はい、男子の出番よ」

「俺が膨らませるのかよ」


 阿瀬君はびっくりした顔できらなちゃんを見た。

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