ううう。私ってえっちなのかなあ
ちょっと怖いな。だから、ちょっとくらいおてて繋いでもいいよね。
私はただしくんの手を握った。
「うわっ、何だよ。どうした?」
「ちょっと怖くて……」
「リタイアするか?」
「ううん、大丈夫、私後ろに座るから、ただしくん前に座って」
「オッケー。本当に大丈夫か?」
「うん、さっき滑った時、ちょっと楽しかったから。大丈夫」
私たちの番がきた。落ちないように、しっかりと穴の中に座り込んだ。
「じゃ、押しますよー。いってらっしゃーい」
ただしくんの頭が見える、ちょっとだけ安心だ。でも結構スピード出てる。コースもうねっていて右に左に遠心力がかかる。
ただしくんがなんか言ってるように思える。何だろう。でも水の音とスピードでちゃんと聞こえない。
そうこうしている内にゴールに辿り着いた。さっきより怖くなかった。ただしくんがいてくれたからかもしれない。
小さいプールにぷかぷかと浮かんでいる。きらなちゃんたちがプールの外で待っていてくれた。
「たかしちゃーん、こっちこっち!」
「きらなちゃーん!」
私は浮き輪から降りて、浮き輪を職員さんに渡した。
「ただしくん、滑ってる時なんか言ってた?」
「いや、大したことじゃないからいいよ」
「そっかあ、大したことじゃないんだ」
「な、何だよ。いいだろ別に。大丈夫かーとか言ってただけだって」
「そっか。ありがと」
「お、おう」
「なになに? 何の話?」
きらなちゃんが面白そうに近寄ってきた。
「ううん、滑り台楽しかったねーって言ってたの」
「そっか。なんか面白そうな気配がしたんだけどなあ」
「気のせいだよ」
「て言うか、スライダー楽しかったんだ! じゃあまた滑れるね! よかったー、怖いって言ってたからもう滑れないかと思ったよー」
「ううん、大丈夫だった。全然怖くなかったよ! 楽しかった!」
「じゃあ、もう一回滑りに行く?」
「滑りに行くのもいいけどさ、俺腹減ったわ」
阿瀬君が引き締まったお腹をさすりながら言った。
「確かに、俺も腹へった」
ただしくんも引き締まってるなあ。さっきまで恥ずかしくてあんまり見てなかったけど、かっこいい。わ、裸を見てかっこいいとか、私えっちかな。えっちだよね。ううう。私ってえっちなのかなあ。
「何項垂れてんのたかしちゃん。そろそろご飯にするかー。時間何時なんだろ。たかしちゃんのお母さんとこ戻ろっか」
「うん、そうしよ。マジで腹減った」
みんなでお母さんのところに戻ると、お母さんがナンパされていた。
「ねえ、一緒に遊ぼうよ。こんなとこに座ってても暇でしょ?」
大学生くらいの男の人だと思う。お母さん三十超えてるのに何してるんだろうこの人は。
「ダメなの。待ってる約束してるから。ほんとごめんなさいね。座って話すくらいならいくらでもしてあげられるんだけどね」
「お母さん、座って話すのもダメでしょ。お父さんがいるでしょ」
「あら、たかしちゃんたちおかえりなさい。どうしたの?」
「お、お母さん?」
「お腹すいたから戻ってきたの。みんなの財布ちょうだい」
「はいはい。あら、キミどうしたの? 固まっちゃって。一緒にお話しないの?」
「だからお母さんにはお父さんがいるでしょ!」
「お、お父さん?」
「はい、これで全員ね。いいじゃないたまには。若い男の子と話したって。ねえ?」
「いや、えっと」
「あー! わかった! お母さんナンパされるために水着着てきたでしょ! 最悪ー! 行こ! もうほっとここんな人!」
「いやん、たかしちゃん。待ってー。って、そこのキミもどこ行くの!」
「お母さん……。お父さん……。年下だと思ったのに……」
「もー! たかしちゃーん!」
お母さんが呼んでいる。悲しそうに呼んでいる。知らない。お父さんがいるのにそんなことして。絶対お父さんにちくってやる。




