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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんとプール
249/274

ううう。私ってえっちなのかなあ

 ちょっと怖いな。だから、ちょっとくらいおてて繋いでもいいよね。

 私はただしくんの手を握った。


「うわっ、何だよ。どうした?」

「ちょっと怖くて……」

「リタイアするか?」

「ううん、大丈夫、私後ろに座るから、ただしくん前に座って」

「オッケー。本当に大丈夫か?」

「うん、さっき滑った時、ちょっと楽しかったから。大丈夫」


 私たちの番がきた。落ちないように、しっかりと穴の中に座り込んだ。


「じゃ、押しますよー。いってらっしゃーい」


 ただしくんの頭が見える、ちょっとだけ安心だ。でも結構スピード出てる。コースもうねっていて右に左に遠心力がかかる。

 ただしくんがなんか言ってるように思える。何だろう。でも水の音とスピードでちゃんと聞こえない。

 そうこうしている内にゴールに辿り着いた。さっきより怖くなかった。ただしくんがいてくれたからかもしれない。

 小さいプールにぷかぷかと浮かんでいる。きらなちゃんたちがプールの外で待っていてくれた。


「たかしちゃーん、こっちこっち!」

「きらなちゃーん!」


 私は浮き輪から降りて、浮き輪を職員さんに渡した。


「ただしくん、滑ってる時なんか言ってた?」

「いや、大したことじゃないからいいよ」

「そっかあ、大したことじゃないんだ」

「な、何だよ。いいだろ別に。大丈夫かーとか言ってただけだって」

「そっか。ありがと」

「お、おう」

「なになに? 何の話?」


 きらなちゃんが面白そうに近寄ってきた。


「ううん、滑り台楽しかったねーって言ってたの」

「そっか。なんか面白そうな気配がしたんだけどなあ」

「気のせいだよ」

「て言うか、スライダー楽しかったんだ! じゃあまた滑れるね! よかったー、怖いって言ってたからもう滑れないかと思ったよー」

「ううん、大丈夫だった。全然怖くなかったよ! 楽しかった!」

「じゃあ、もう一回滑りに行く?」

「滑りに行くのもいいけどさ、俺腹減ったわ」


 阿瀬君が引き締まったお腹をさすりながら言った。


「確かに、俺も腹へった」


 ただしくんも引き締まってるなあ。さっきまで恥ずかしくてあんまり見てなかったけど、かっこいい。わ、裸を見てかっこいいとか、私えっちかな。えっちだよね。ううう。私ってえっちなのかなあ。


「何項垂れてんのたかしちゃん。そろそろご飯にするかー。時間何時なんだろ。たかしちゃんのお母さんとこ戻ろっか」

「うん、そうしよ。マジで腹減った」


 みんなでお母さんのところに戻ると、お母さんがナンパされていた。


「ねえ、一緒に遊ぼうよ。こんなとこに座ってても暇でしょ?」


 大学生くらいの男の人だと思う。お母さん三十超えてるのに何してるんだろうこの人は。


「ダメなの。待ってる約束してるから。ほんとごめんなさいね。座って話すくらいならいくらでもしてあげられるんだけどね」

「お母さん、座って話すのもダメでしょ。お父さんがいるでしょ」

「あら、たかしちゃんたちおかえりなさい。どうしたの?」

「お、お母さん?」

「お腹すいたから戻ってきたの。みんなの財布ちょうだい」

「はいはい。あら、キミどうしたの? 固まっちゃって。一緒にお話しないの?」

「だからお母さんにはお父さんがいるでしょ!」

「お、お父さん?」

「はい、これで全員ね。いいじゃないたまには。若い男の子と話したって。ねえ?」

「いや、えっと」

「あー! わかった! お母さんナンパされるために水着着てきたでしょ! 最悪ー! 行こ! もうほっとここんな人!」

「いやん、たかしちゃん。待ってー。って、そこのキミもどこ行くの!」

「お母さん……。お父さん……。年下だと思ったのに……」

「もー! たかしちゃーん!」


 お母さんが呼んでいる。悲しそうに呼んでいる。知らない。お父さんがいるのにそんなことして。絶対お父さんにちくってやる。


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