あのー、すいません、うちの彼女がなんか粗相でもしましたか?
「そんな怖がらなくたっていいじゃん。ちょっと話しかけただけじゃんねー?」
「行こ」
きらなちゃんは男の人を無視してその場から離れようとした。だけど男の人たちに通せんぼされた。
「なんですか? 何か用ですか?」
きらなちゃんが強い口調で言った。きらなちゃんはすごく警戒してるみたいだ。
「何でそんな警戒すんのさ。可愛い女の子いるなーと思って声かけただけじゃん。三人できたの?」
「どいてください。通れません」
「いいじゃんか、ちょっと喋ろうよ。三人できたんでしょ?」
「いえ、八人できました」
「絶対嘘じゃん。八人って」
嘘じゃない。本当だ。どうしよう、変な男の人に捕まってしまった。
「ねえ、君たちいくつ? 俺ら高二なんだけど。高一? 高二?」
「中二です。もう行ってもいいですか?」
「え、まじ? 君おっぱいおっきいねえ。どうなの、そんな水着着て見せびらかしてる気持ちは。やっぱ気持ちいいの?」
「見せびらかしてないです。退いてください」
「そっちの子たちはちっちゃいけど可愛いじゃんね。めっちゃ日焼けしてるじゃん。水着跡?えっちだねえ。ご飯奢るから一緒に食べようよ。どうせ暇してるんでしょ?」
「暇じゃありません」
「私たち友達またせてるんです。いかせてもらえませんか?」
「そんな嘘はいいから。こっちに売店あるから行こうよ」
きらなちゃんの手が知らない男の人に握られた。もう二人が私たちの後ろについて肩をもたれて逃げられないようにされた。
「何食べたい? フランクフルト? 焼きそば?」
「何もいらないから離して」
きらなちゃんはブンブンと腕を振って逃げ出そうとしている。手が外れたら走り出すかも。絶対置いてかれないようにしなきゃ。
でも、きらなちゃんの力では、腕を振り解くことはできなかった。
「ねえ、ほんと君たちかわいいね。なんて名前?」
「言いたくありません」
「じゃあ勝手に名前つけちゃおっかなあ」
「あー、やっと見つけた」
知ってる声が後から聞こえてきた。
「あのー、すいません、うちの彼女がなんか粗相でもしましたか?」
「はあ? 誰お前?」
「だから、うちの彼女がなんか粗相でもしたかって言ってんだよ。どうせ何もしてねえんだろ、わかってんだよ。ナンパするなら他所にしてくれる? ほら、いくぞ綺羅名」
阿瀬君がきらなちゃんの腕を奪い取って、ずかずかと歩いていった。
私とれいかちゃんも逃げるように阿瀬君の後を追いかけた。
しばらく歩くと、男の人たちの姿は見えなくなっていた。
「っはあー、ビビったー。何してんだよ。なんか気になって見に来たら、何絡まれてんだよ」
「何よ、私たちだって絡まれたくて絡まれたわけじゃないわよ」
「そうかいそうかい。もし俺がこなかったらどうするつもりだったんだよ」
「そんなの知らないわよ。私だってたかしちゃんもいるし、麗夏もいるし、色々考えて、でもどうすることもできなかったのよ。何よ。彼氏ならもっと早く助けに来なさいよ」
「彼氏じゃねえよ、そう言った方が逃げられるかと思っただけだよ」
「うわあーん、怖かったよー。たかしちゃん、麗夏、ごめんねー。私何もできなかったよー」
きらなちゃんが泣き出してしまった。
「ううん、私も何もできなかったから。きらなちゃん、泣かないで。今はもう何ともないから、ね?」
「きらちゃんのおかげでたくさん時間稼げたからシューくんが間に合って来てくれたんだよ。きらちゃんのおかげだよ」
「うわーん、蹴人のばかあー」
「何で俺なんだよ。助けてやったろ? お前も女なんだから、もうちょっと気をつけろよ。ほら、その、お前、あれなんだし」
「あれって何よ」
きらなちゃんの鼻はズビズビ言っている。
「か……」
「か?」
「か、かか」
「かか?」
「かわいいって言いたいんだよね、シューくんは」
「なっ! ち、ちげえよ」
「ちげえくもないけど」っていう阿瀬君の小さな声が、私には聞こえた。きらなちゃんにも聞こえただろうか。きらなちゃんは顔が真っ赤になっていた。
「ほら、行くぞ」




