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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんとプール
246/274

滑り台のトンネルが、闇の底に見えてくる

 ウォータースライダーかあ。


 ちょっと、ううん、ちょっとじゃなく怖いなあ。


 早いスピードで滑っていくんだと思うと、怖い。ジェットコースターとかも、乗れないもんなあ。あんまり遊園地とか行ったことなかったし。乗ったこともないんだけれど。


「よしよし、じゃあみんなで行きましょ!」


 みんな行っちゃうなら私もついていかないとだ。

 階段を登って、二階に行くと、列ができていた。


「これウォータースライダーの列ね」

「結構並んでるねえ」

「まあすぐっしょ。俺ウォータースライダー初めてだわ」

「私も初めて。ジェットコースターはあるけどね。どれくらい違うんだろう」

「たかし、どうした?」


 ただしくんが気にかけてくれた。


「ちょっと、怖くて」

「大丈夫だって、意外と滑れば楽しいんもんだよ」

「そうかなあ。私ジェットコースターとかも乗れないし……乗ったこともないけど」

「滑り台は滑れるだろ?」

「あー。滑り台もちょっと怖い」

「ま、まあ、大丈夫なんじゃね? 最悪滑れなかった時は滑れなかった時じゃん」


 ただしくんが頭を撫でてくれた。


「あー、私もやるー」


 きらなちゃんも頭を撫でてくれた。


「私も私もー」

「僕もー」


 れいかちゃんとここちゃんまで頭を撫でてくれた。ちょっと怖いのがマシになった気がする。まだ怖いけど、でも、頑張ったら滑れるような。そんな気がする。


「みんなありがとう」


 列はどんどん進んでいって、私たちの番が回ってきた。


「じゃあ私一番に滑るねー!」

「いってらっしゃーい」


 あっという間だった。きらなちゃんはあっという間に青くて薄暗いトンネルの中に吸い込まれていった。それからみんなどんどん滑っていった。あとは私とただしくんだけだ。


「じゃ、下で待ってるな」


 また頭を撫でてから、ただしくんは滑っていった。私一人ぼっちになってしまった。急に怖さが強くなる。滑り台のトンネルが、闇の底に見えてくる。


 でも、私の番がきた。


 滑り台の上に座って、号令をまった。


「はい、どうぞ、いってらっしゃーい!」


 私は勇気を振り絞って滑り出した。みんなが待ってる。滑らないと。そう思うと割と簡単に滑りだせた。グネグネと滑り台の形がうねっている。体が右に左に揺られる。滑り台から飛び出さないかと思う恐怖はあったけれど、感じたことのない疾走感が、なぜか少し気持ちを昂らせた。滑り台はあっという間に終わって、私は小さいプールに投げ出された。ちょっと溺れると思った。水を飲んでしまった。小さいプールは腰くらいの深さだった。


「たかしちゃーん! 滑れたじゃん! すごーい!」


 プールから上がるときらなちゃんが私の頭をわしゃわしゃとしてくれた。


「うん、思ったよりも怖くなかったよ」

「よかったー! たかしちゃん怖すぎて降りてこないかと思ってたから!」

「怖かったけど、みんな待ってるって思ったらがんばれた! でもちょっと楽しかったから、滑れてよかった」

「んじゃー次のスライダー行く?」

「いこっか! って思ったけど、おトイレ行って来ていい?」

「あ、私も行くー」

「私も……」

「ここは?」

「僕はまだいいや」

「そ、じゃあ三人で行ってくるわ。ここで待っててくれる?」

「おー。オッケー」


 トイレは入り口のトイレよりも、別にあるトイレの方が近い感じだった。

 私たちは濡れた体でトイレに向かった。


「ふいー、いっぱい出たわ」

「もう、きらなちゃんそう言うこと言わないの」

「私もいっぱい出たわー」

「もう、れいかちゃんまで!」

「たかしちゃんは?」

「私は普通くらい……。ってこらー! そんなこと言わせないでー!」


 トイレの前で私たちがわちゃわちゃしていると、三人の男の人が近寄ってきた。


「ねー、君たち三人?」


 私は咄嗟にきらなちゃんの後ろに隠れた。

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