ただしくんはすうっと目を逸らした
「なあ忠。たかしってあんな積極的だったっけ?」
「いや、だんだん積極的になってきてるっぽい。綺羅名に引っ張られてるのかもしれない」
「あー、わかる。俺も昔に比べたら積極的になった気がするし、なんか引っ張られるんだよな」
「でも、高橋さんって初めて遊んだ時よりも断然かわいくなったよね。良かったね、彼女にできて」
「まあ、うん」
三人が嬉しい会話をしてくれている。聞き耳を立てたわけじゃないけど、聞こえてしまった。でも、良かった。聞けて良かった。
「あと何分くらいで着くー?」
「えーっと、次が平戸だから、あと四十分くらいじゃないかしら?」
「まだまだだねえ。電車ってあんま得意じゃないなあ。人いっぱい乗ったりするし、今日の電車は少ないけど」
「あー、後でどっと乗ってくるよ」
「えー、やだなあ。あそこで降りないとって思っちゃいすぎて気が気じゃないんだよねえ。人いっぱいだとドア閉まるまでに降りれるかなって心配もあるし」
「あはは、心配しすぎだよ。意外とドアの空いてる時間長いしさ。大丈夫大丈夫。私に任せて?」
「本当に任せていい?」
「いいよ。たかしちゃんは電車怖くない?」
「私はお外見るのが楽しいなあ。風景が綺麗で好きー。東京は住宅街とかばっかだったから新鮮で楽しいよ」
「たかしちゃん、そんな後向いて座ったらパンツ見えちゃうよ」
「わー。って、パンツじゃないよう、ショートパンツだよう」
「だからって見せていいの? あいつらガン見よ?」
あ、ただしくんと目があった。
みた?
みたの?
ただしくんはすうっと目を逸らした。
みたんだ。やっぱりただしくんもパンツとかみたいえっちな人なんだ。うー、恥ずかしい。ショートパンツでも恥ずかしい。
私は前に座り直して、体だけ外に向けた。
「うん、そうやって座りなさい。それがいいわ。それにしてもなんか不思議なもんとかある?」
「ううん、ないよ。田んぼとか川とか、それくらい」
「なーんだ、つまんないわね。おしゃべりしましょ。後二駅ぐらいしたらどっと乗ってくるから」
「やだなあ」
きらなちゃんが言うように、次のその次の駅で、人がどっと乗ってきた。この人たちもプールに行くんだろうか。ってそんなわけないか。みんなどこからきて、どこに行くんだろう。お仕事かな。遊びに行くのかな。ショッピングかな。わからないけれど、電車の中は人でいっぱいになった。
「きらちゃんの言うとおり本当にいっぱい乗ってきたね」
「ここの駅はまあまあ大きいからねー、特に川﨑に行く人が多いらしいわ。昨日お母さんに聞いたんだけどね。だからこの満員も川﨑までだと思うよ。私たちはその先のひさしに行くから、その時はだいぶん空いてると思う」
「ただしくんたち見えなくなっちゃったね」
「寂しい?」
「ヒューヒュー?」
あ、しまった。恥ずかしいこと言っちゃった。
「もう、そんなことないもん! ちょっと見えなくなったなあって思っただけだもん!」
「しー。いろんな人がいるんだからそんなおっきな声出しちゃだめだよ」
「うう、ごめんなさい……」
「まあでも確かに、見えなくなると不安にはなるわね。て言うかさ。不安になるで思い出したけど、ここの私服ってどう思う?」
「ここちゃんの私服? ……男の子っぽいなあって思うかなあ?」
「よねえ。あの子、服買わないんだって。全部お兄ちゃんのお下がりなんだって。だから全部ズボンだし、服はダボダボだし、まあそれがここには似合ってるとは思うけどさ。なんかもっと女の子らしい格好すればいいのにって思うのよね」
「たしかに。セーラー服似合ってるもんね、それにここちゃんかわいいもんね。じっとしてたら美少女って感じがする」
「そう。じっとしてたらね。でも動くのよ。喋るのよ。ほんと勿体無いわよねえ。何よりあいつらがそれに気づいてないのが気に食わないわ」
「あいつらって?」
「蹴人たちよ。あいつらここが可愛いとか思ったことなさそうじゃない?」
「確かに、昔っから男友達って感じだもんね。はじめんとかはちょっと気づいてそうだけど、後の二人は全然気づいてなさそうね」
「でもラッキースケベは狙ってるわよね」
「わかるー。こっこちゃん平気で服脱ぐもんね。絶対えっちな目で見てるよ」
「じゃあ意外と気づいてたりして?」
「うーん、でもこっこちゃん男っぽいからねえ」
「そうなんだよねえ」
二人はうーんと悩み込んでしまった。




