いつの間にか眠りについていた
「う、うん。出来たよ」
「どんなこ? たかしちゃんよりも可愛いの? それとも男の子?」
「お母さんのばか。私よりなんてみんな可愛いよ。それにお友達は女の子だよ。男の子とは話してない」
「そっかそっか。たかしちゃんより可愛いとはなかなかやるな。と言うことはお母さんより可愛いってこと?」
「当たり前でしょ。お母さんより可愛いよ」
お母さんはばかだ。
でも、正直言うとお母さんは可愛いと思う。歳の割には幼い顔立ちで、私はお母さんに似てるとか、姉妹だと思っただとか言われたことはあるけどそんなことはないと思う。私はお母さんみたいに可愛くない。お母さんは自分が可愛いってわかっているらしく、すぐ可愛こぶる。
可愛いんだけど、ちょっとうざい。
「どんなお友達なの?」
ドキッとした。そんなの考えていなかった。
えっと、えっと。
「りさこちゃんって言うの。水泳部なんだって。一緒に部活しよって誘われちゃった」
大嘘だ。そんな子、二年A組にはいない。名簿を見られたらいないことがバレるから絶対に見せないようにしようと思った。
「水泳部入るの?」
「ううん、私運動音痴だから、一緒には出来ないって言ったよ。二十五メートルも泳げないもん。でもねお裁縫は今度一緒にしよって約束したよ」
これも大嘘だ。そんな約束なんてしていない。私は友達なんてできていない。でも、友達が出来なかったとか、怒鳴ったとか言えなくて、私は嘘を積み重ねた。
お母さんとおばあちゃんの顔を見た。二人は嬉しそうな、安心したような顔をした。これだ。この顔を守らなくちゃ。私はこの顔をさせるために出来ることをするんだ。その為なら、嘘だってつかなくちゃ。
「たかしちゃんが心配だったからおばあちゃん安心したよ」
おばあちゃんがボソっと言った。
「大丈夫だよ。安心して」
私はご飯を口に放り込みながら返事をした。おばあちゃんはニコッと笑った。
「ごちそうさまでした」
みんなが食べ終わっている中、私は一人食べていた。私は食べるのが遅かった。
「僕先にお風呂入っちゃおー」
天が着替えを持って洗面所に向かっていった。やっと食べ終わった私はごちそうさまをして、食器をまとめて流しに持っていった。流しではお母さんが他の食器を洗っていた。
「はい、ありがと」
「お母さん……」
「なあに?」
「ううん。なんでもない」
本当のことを言おうかと少し迷って、やめた。
やっぱり心配はかけられない。ずっと笑顔で笑っていてほしい。私は嘘をつき続けようと決意した。いつか、本当に友達が出来るまで、私は嘘を吐き続けるんだ。
「おばあちゃん。病気は大丈夫?」
って聞きたい。天がお風呂から上がるまで、私は今のテレビを見て待つことにした。おばあちゃんも一緒にお笑い芸人さんがいっぱい出ているバラエティ番組を見ている。
おばあちゃんに病気のことを聞くなら今だ。今なら聞ける。でも、聞いたら本当の寿命を知ってしまう。それが怖くて、おばあちゃんの病気のことを私は聞けなかった。
おばあちゃんを見る。おばあちゃんは普通に、楽しそうにテレビを見ている。病気なんてなんともないと思えるほどに、おばあちゃんはなんともなかった。
テレビのお笑い芸人さんが一発ギャグをして、おばあちゃんが笑った。私には面白いと思えなかったけれど、体を張って笑いをとるお笑い芸人さんがすごいと思った。
私には出来ないことだなあと思う。
私は恥ずかしいことが苦手だ。明日、誰かに声をかけられるだろうか。知らない人に声をかけるのは恥ずかしいことだ。私には出来ないことかもしれない。でも、まだわからない。明日になってみないとわからない。明日の私は頑張れるかもしれない。
「お姉ちゃん。お風呂上がったよー」
天が濡れた頭のまま居間に入ってきた。
「はーい」
私は二階の自室に行って引き出しから下着とパジャマを取り出した。着替えセットを持って洗面所に入ると、むわっと湯気が体に張り付いた。
お風呂に入って、腰まである長い髪をゆっくりと乾かし、自室のベッドに寝転がった。
もう後は自由時間だ。今は八時を過ぎたところで、宿題も終わっている。
縫い物でもしようかなと思ったけど、心がそれどころではなかった。今日はもう寝てしようかなと思うほど、心が疲弊していた。
「疲れた……。眠いなあ」
あんなにも心臓が破裂しそうだった、転校が終わった。
私はいつの間にか眠りについていた。




