赤ちゃんみたいに体丸めて親指ちゅっちゅしながら寝てたよ?
「たかしちゃん、起きて。たかしちゃん」
「んん? きらなちゃん」
「そうだよ綺羅名だよ」
「なんできらなちゃんが私の部屋にいるの? 遊びに来たの?」
「何言ってんの、ここは私の部屋! たかしちゃんが泊まりに来てるの!」
「そうだっけ」
随分ぐっすり眠った気がする。窓に掛けられたカーテンから明るい光が入り込んできていた。
「もう一時だよ! 一時二十三分!」
「えええ、もうお昼じゃん。きらなちゃんも今起きたの?」
「ううん、私は二時間前に起きたよメイクもばっちし」
本当だ。きらなちゃん、もうお化粧してる。
「って! だったら起こしてよう」
「たかしちゃんぐっすり眠ってたから……。赤ちゃんみたいに体丸めて親指ちゅっちゅしながら寝てたよ?」
「う、うそだあ。そんなことしないもん」
「ほんとほんと、インスタントカメラで写真撮っといたから今度見せてあげる」
「わう、や、やだあ、そんな恥ずかしいの見たくなーい。……私っていつもそうやって寝てるのかなあ」
「さあねえ、こないだ泊まった時も部活の時もたかしちゃんが先に起きてたから知らなかったわ。いつもかもしれないし、たまたまかもしれない」
「たまたまがいいなあ」
「たまたまでも可愛いことには変わりないけどね」
「かわいくないよう」
親指吸うなんて、赤ちゃんみたい。やだなあ。
「ご飯食べる? と言っても昨日のカレーだけど。私もうお腹ぺこぺこ」
きらなちゃんはお腹をさすった。
「食べる! のまえにお着替えさせて」
「私の服きる?」
「うーん、ちょっと着たいけど、今日は持ってきたお洋服着ることにする」
「ちぇー。たかしちゃんにへそ出しルックさせようと思ったのに」
きらなちゃんがとんでもないことを考えていた。
「おへそは恥ずかしいからなしー! ちょっときらなちゃん、向こう向いてて」
「いいよ?」
私はその隙にカバンから裾のところにだけ大きな花柄のついた水色のキャミソールワンピを出した。今日も暑いからシャツは無しにした。
「隙あり!」
本当に隙ありだった。パジャマの上と下を脱いで丁度ワンピースに手を掛けるその瞬間、きらなちゃんにワンピースを掻っ攫われた。
「たかしちゃん着替えるのに夢中で私が途中から普通に見てるのに全然気づかないんだもん。そういうとこ、気をつけたほうがいいよ」
「う、確かに、気づかなかった」
前屈みになってブラとパンツを隠す。やっぱり何度見られても恥ずかしい。
「きらなちゃん、返して。風邪ひいちゃうよう」
「こんな夏の時期に下着姿になっても風邪なんてひきません」
「ひかなくても返してえ」
「仕方ないわねえ、じゃあ私が着せてあげるわ」
「えええ、恥ずかしいよう」
「もう全部見たことあるのにまだ恥ずかしいの? 本当恥ずかしがり屋さんなんだから。ほら、バンザイして」
きらなちゃんのこの目は、もう逃げられない時の目だ。
私は恥ずかしさを押し殺して目を瞑ってバンザイをした。
「隙あり」
「にゃははは、わははは。きらなちゃん、こら、こらあ。にゃあははは」
脇腹を思い切りこそばされた。すっごくこそばゆいんだから。
「きらなちゃん!」
私は下着姿なことを忘れてきらなちゃんを追いかけた。部屋の中だから私でも簡単に捕まえられた。
「おりゃー!」
「だははは、あはははは、ストップ、あはは、ストップストップ。ごめん、ごめんって、ストーップ」
「ふう、って私下着のまんまだった。返しなさい」
きらなちゃんからワンピースをひったくって、その場で着た。
ふう、これで一安心。やっぱりワンピースは落ち着くな。
「もっと足出せばいいのに」




