別の女の子になったみたいだった
「わあ」
鏡に映った顔は私とは思えなかった。目がいつもと違う形してて、まつ毛もいっぱい生えてて、お肌もツヤっとフワッとしてて、とっても綺麗だった。
「すごーい。綺麗。私じゃないみたい。きらなちゃんのお母さん、ありがとうございます」
「いえいえ、今度来た時は自分でやってみましょうね」
「はい。わあー、すごーい。お化粧ってすごいねきらなちゃん!」
「わあっ! たかしちゃんかわいいー! たかしちゃんってメイクしたらそんな感じになるんだ!」
「わう、なんか恥ずかしくなってきた。きらなちゃんは自分でもできていいなあ。私もできるようになるかなあ」
「なるよ! 私だってできるようになったんだもん」
「じゃあ、お母さんはこの辺で失礼するわね。寝る前にちゃんと顔洗いなさいね」
「はーい」
「はあい」
きらなちゃんはいつも通りって感じだった。いつも通りってことは可愛いってこと。
私はいつも通りじゃない。全然違う。別の女の子になったみたいだった。
「お化粧って魔法みたいだね。きらなちゃんはお化粧とってもきらなちゃんのままなのに、私このままだったら私じゃなくなっちゃう」
「あはは、なにそれ、たかしちゃんだっていつものたかしちゃんがいつもより綺麗になったって感じだよ? メイクとってもかわいいんだから大丈夫だよ」
「そうかなあ、それならいいけど。なんか変わりすぎな気がする」
「そんなことないない。たかしちゃんプラスって感じだよ!」
「ふふふ、なにそれ」
「いつものたかしちゃんにプラスした感じ! 元はたかしちゃんだもん。ねえねえ、カメラ貸してー」
「あ、うん」
私はリボンの横に置いてあったカメラをきらなちゃんに渡した。
「たかしちゃん、リボンつけて!」
私は言われる通りリボンをつけた。鏡を見るといつもと全然違う私が写っている。私が動くと、鏡の中の別人が動く。なんか変な感じだった。
「写真とろー、このたかしちゃんは残しておかないと」
「うう、恥ずかしいなあ」
「ちゃんとピースしてよ?」
「う、うん」
「あ、ちょっと待って、お母さんにとってもらお。そっちの方が確実だ」
「そうだね」
きらなちゃんがきらなちゃんのお母さんを呼びに部屋を出ていった。
「全然違うなあ、この私ならかわいいって思うかも。ちょっと綺麗系になれたかも」
鏡を持って顔の向きを変えていろんな角度で見た。可愛い。綺麗。本当にすごい。
「お待たせー、じゃあお母さん、写真撮って!」
「はいはい、じゃあ二人とも並んでー」
「たかしちゃんこっち、ベッド座って」
「うん」
二人で並んでベッドに座った。
「ほら、ピースして」
「うう、恥ずかしいなあ」
「恥ずかしくないない。ピース」
「ぴ、ぴーす」
「じゃ、撮るよー。はい、チーズ」
パシャリ。
綺麗な私が写真に撮られた。これでまたいつでも見ることができる。嬉しい。
「はわああ」
「あはは、たかしちゃんおっきいあくび」
「ベッドに座ったら眠たくなってきちゃった」
「だってもう十一時半だもんね。たかしちゃんにしたら夜更かししてる方じゃない?」
「わあ、本当だ。アルバムとか見たいのになあ。お化粧も落としたくない。もったいない」
せっかくお化粧してもらったばっかりなのに、すぐに落とすのはもったいなさ過ぎる。




