きらなちゃん、あのね、じゃがいもがね
「あああ、そうだ! きらなちゃん、あのね、じゃがいもがね」
「じゃがいもがどうしたの?」
「消えてなくなっちゃった! ほら、みて!」
私は何度も鍋をかき混ぜてみせた。
「ああ、本当だ。じゃがいもがない! 玉ねぎとにんじんはあるのに!」
「あく取らなかったからかなあ」
「わかんない、あくってそんなことすんの?」
「わかんない。あくって悪ってこと? わるなの? きらなちゃんどうしよう、完成したけどじゃがいもなしになっちゃった」
「今から入れるにしても、じゃがいも全部使っちゃったから入れるじゃがいもないしね」
「きらなちゃんのお母さんにごめんなさいしないと」
「まあじゃがいもくらいなくたっていいでしょ。ちょっと待ってて、お皿取るから」
きらなちゃんは食器棚からくぼんだお皿を取った。
「じゃ私ご飯入れるからたかしちゃんカレー入れて」
「はあい。あ、きらなちゃん、お玉ってある? ヘラじゃカレー掬えない」
「あ、そっか。どこだっけなあ、ここの引き出しだったかな? あー、あったあった。お玉ってこれでしょ?」
きらなちゃんがお玉を持ってにっこりした。
「それそれ! じゃあご飯待ちー」
「はーい、まずはーこんだけね。これ、お母さんの分」
「はあい」
じゃがいものなくなったカレーを掬って綺麗にご飯のない方に入れた。
「はいどうぞー」
「そこ置いといてー。次はこんくらい。私のぶーん」
「わあ、ご飯多いねえ」
「お腹減ってるからねー。カレーもたっぷりかけてー」
「はあい」
「でー、最後はたかしちゃんの分。どれくらい食べる?」
「うーん、普通ぐらい」
「普通ぐらいね、わかったわ。はいどうぞ」
「わあ、多いー」
「あら、多かった? まあ食べられるでしょ、好きなだけカレーかけなさい?」
「食べられるかなあ。たらーっと。よし、完成だね」
「あとはテーブルに持っていって、あ、スプーンスプーン。食器棚の引き出しに入ってるから三本持ってきてー」
「はあい。……あ、あったあった。わあ、かわいいスプーン。持ち手にドライフラワーみたいなのが入った宝石みたいなのがついている」
私はお花のスプーンを三本取って、テーブルに向かった。
「お母さん、カレーできたよー」
「はーい。お疲れ様。ありがとうね二人とも。じゃあ食べましょうか」
時間は九時十一分だった。だいぶ遅い晩御飯になってしまった。
「あの……。遅くなっちゃってごめんなさい」
「いいのよ、私があなたたちに任せたんだから」
「あ、あと、じゃがいも、なくなっちゃいました」
「じゃがいも? ああー、カレーのね。どれくらいに切ったの?」
「一センチくらいです」
「ふふふ、じゃあ溶けちゃったのね。大丈夫よ、見た目は消えてるけどしっかりカレーに入ってるから」
へええ。じゃがいもって溶けるんだ。知らなかった。
「たかしちゃん、謝ってないで食べよ。私お腹すいちゃった」
「うん、食べよ」
「いただきまーす!」
「うまー!」
「うん、おいしいね」
初めて自分達だけで作ったカレーは、失敗もしたけどとても美味しかった。私の家のカレーとは違う味がして、新鮮だった。
「次は何作ろうねーきらなちゃん」
「うん、何がいいかなあ。肉じゃが作ったでしょー、カレー作ったでしょー。じゃあ次はシチュー?」
「ふふふ、なんだか全部作り方似てそうだね」
「確かに! まあいっか、今はカレーを楽しもう。うんまー」
「おいしいねえ」
どれだけお腹が空いていたのか、きらなちゃんはカレーをおかわりをした。私はというとよく噛んで食べる癖が抜けずにゆっくり食べていた。きらなちゃんのお母さんも美味しいって言ってくれて嬉しかった。また、今度はうちでご飯作りがしたいなって思った。




