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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんとお泊まり
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あく取ってない!

「はい。洗ったやつはどうするの?」

「はいはい、貸して。こっちに布巾あるからそれで拭いてしまっとくね」

「お願いしまーす。ふう、そろそろかねえ?」


 鍋の中を覗いてみた。沸々と小さな泡が出来始めていた。もうちょっとだ。


「パッケージでもみとこーっと。……あとはルウを入れて。時々かき混ぜながら十分煮込むだけだ。ああ! きらなちゃん!」


 多分、大切なことを忘れていた。


「あく、あく取ってない!」

「えええ! あくとらないと! ……て、あくってなに? あくなんて入れてないよ」

「本当だ。あくなんて入れてない。あくってなんだろう」


 鍋の中を覗いても、あくなんて入っていない。じゃああくってなんだろう。


「でもでも、あくを取り、具材が柔らかくなるまで煮込むって書いてあるよ?」

「でもあくなんて入れてないじゃん。あくってどっかから出てくるの?」

「わかんない。あくってなんだろう。どうする?」

「鍋の中見ても別に変じゃないし、あくなんて入ってないんじゃないかな」

「そっか、そうだよね。じゃあいっか」

「うんうん、気にしない気にしない」

「沸騰してきたね」


 ぼこぼことお鍋が煮えてきた。


「よし、じゃあ、キッチンタイマーセットしてっと」


 きらなちゃんがニワトリのキッチンタイマーをぐるっと回して十五分に合わせた。あとは十五分たつまで待つだけだ。


「うーん、暇だねー」

「そうだね、待つだけだもんね」

「かといって部屋に戻っても十五分ですることないしねえ」

「キッチンタイマーの音も聞こえないもんね」

「それはキッチンタイマー部屋に持って行けばいいんだけどね」

「あ、そっか」

「うーん」

「うーん」

「あ、やばいわ、電話しないと」

「わー、もう八時半だね。みんな寝ちゃうね」

「寝ないわよ。私電話してくるからたかしちゃん十五分立ったらルウ入れといてくれる?」

「わかった」

「じゃあちょっと電話してくるわ」


 きらなちゃんはソファの向こうにある電話をしに走っていった。テレビの音がしてるからきらなちゃんの声はあまり聞こえない。


 きらなちゃんもカレーもまだかなあ。私はニワトリのキッチンタイマーを片手にキッチンに体育座りをして待った。なんだか自分の家じゃないのにだいぶくつろいでるなあ。きらなちゃんのお母さんが優しいからかな。


 きらなちゃんが帰ってくるよりも先に、キッチンタイマーがチンっとなった。


「ルウ入れないと……」


 私はカレールウのパッケージを開けて、ルウを取り出した。


「これ、割って入れるのかな……パッケージには割って入れてるような絵が描かれてるし、割って入れるんだよね。よいしょ」


 パキッって割れると思ったら、なんだがぐんにゃりした。


「え、割れた? あ、あってるよね」


 二つあったルウを六個ずつにぐんにゃりさせてから、蓋を開けた。中に入っていたルウには微かに切れ目がついていた。


「あ、火を止めるって書いてある。危ない危ない」


 火をとめて。カレーのルウを一つづつ摘んで鍋の中に放り投げた。ぽちゃんとお湯が跳ねて手にかかった。


「あちち、これ怖いなあ」


 残りのルウも頑張って鍋の中に入れて、溶けるまで混ぜ続けた。


「なかなか溶けないなあ」


 混ぜていると、たまにまだ塊になって残っているルウが顔を出す。一生懸命ルウが溶けるように混ぜる。きらなちゃん戻ってこないかなあ、手が疲れてきちゃった。

 だけど、きらなちゃんは戻ってこなくて、最後まで自分で混ぜた。

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