本当にきらなちゃんの夢は泥棒なの?
「えええ、なにそれ、じゃあもう最初から煮込んだほうが良くない?」
「そうだねえ、なんで炒めるんだろう。なんか意味あるのかなあ」
「…………ないわね。よし、水入れちゃお。たかしちゃん、水用意して!」
「はあい」
パッケージには水一四〇〇ミリリットルと書かれている。えーっと、計量カップ計量カップ。流しの下の戸棚を開けると五〇〇ミリリットル測れる計量カップがしまってあった。
「あったあ。えーっと、一四〇〇だから、三回だね。まずはー、五百ー」
じゃあっと鍋の中に水を入れた。具材たちに吸い込まれていって水が見えなくなった。
「次の五百ー」
少し水が見えるようになった。後一回。
「最後の四百ー。じゃばあ」
「おおー、ってじゃがいもとか水から出てるけど、まあいっか」
「多分沸騰したらなんとかなるんじゃないかなあ。わかんないけど」
「まあ混ぜてれば問題ないでしょ。何分煮込むの?」
「沸騰してから十五分だって」
「沸騰してからね。キッチンタイマーはここにあるんだなあ」
きらなちゃんは引き出しの中からニワトリ型の丸いキッチンタイマーを出してきた。
「わあ、可愛い、なにこれー」
「ニワトリよ。時間になったらコケコッコーって鳴くのよ」
「ええ! ほんと! 楽しみ!」
「嘘よ。本当はチンってなるだけよ」
「もうー、嘘つきー! 可愛いなって思ったのにい」
「あはは、私将来の夢泥棒だからね」
「嘘だあ、わかるよそれくらい」
もう、きらなちゃん私のこと馬鹿にして!
そんなの信じるわけないじゃん!
「え? 本当よ?」
「嘘だあ。だって泥棒なんて捕まっちゃうもん」
「捕まらない泥棒になろうと思ってるのよ。そんで、盗んだ宝石とかを、貧しい人たちにあげるの。救いたいんだ、貧しい人たちを」
「え、ほ、本当なの?」
本当にきらなちゃんの夢は泥棒なの?
「ふふ、嘘よ」
「もうー! ばかばかあ! ちょっと信じかけちゃったじゃん!」
「あははー、たかしちゃんはかわいいねえ」
「かわいくない! ばか!」
「それにしても全然沸騰しないわね」
「水たっぷりだもんねえ。今のうちにお片付けしとく?」
「そうだね。お母さん、ゴミ袋ちょうだい」
「はいはい」
きらんちゃんのお母さんはキッチンの戸棚の中からゴミ袋を一枚取り出してくれた。
「もうすぐ出来そうね。お母さんお腹すいちゃった。ご飯だけでも食べようかしら」
「だめだよ! せっかくカレー作ってるんだからもうちょっと待って!」
「はーい。じゃあ待ってるわねー」
きらなちゃんのお母さんはソファにテレビを見に行った。お風呂上がりのキャミソールに短パンというラフな姿でもとっても綺麗だった。うちのお母さんとは大違いだ。私のお母さんはお風呂上がりは私みたいなパジャマ姿になる。子供みたいだ。
「皮は全部ゴミ袋に入れてー。まだ縛らない方がいいよね」
「うん、カレーのルウのゴミも出るからね。私まな板と包丁洗っちゃうね?」
「うん、たかしちゃんまかせた、私は沸騰するまで鍋見つめてるよ」
「ふふふ、見つめてたら余計時間かかる気がしない?」
「確かに、じゃあ見ないでおこ。たかしちゃんの洗い物見物しよー」
きらなちゃんに見られながら私は包丁とまな板を洗う。小さなスポンジに洗剤と水をつけて、わしゃわしゃ。泡を作って包丁とまな板を擦っていく。綺麗になってるかわからないけど、これで綺麗になってるらしい。私たちの体と一緒だ。




