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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんとお泊まり
208/275

それ小さじだよう。大さじはこっち

「玉ねぎってこんなに目が痛くなるんだねえ」

「私玉ねぎ嫌いになりそう」

「でも美味しいよ?」

「もう二度と玉ねぎなんて切りたくない! 丸齧りする!」

「玉ねぎって生だと辛いんだよ?」

「そうなの? 生の玉ねぎ食べたことないから知らなかった。なんでたかしちゃん知ってるの?」

「お母さんから聞いた。玉ねぎはねえ、生で食べると辛いんだよー。って言ってた」

「あはは、似てる似てる。たかしちゃんモノマネうまーい!」

「ええ、なんかお母さんに似てるって言われても嬉しくないなあ」

「なんでえ、たかしちゃんとたかしちゃんのお母さんは似てるよー、見た目も、声も。双子みたい」

「やだなあ。でもきらなちゃんもきらなちゃんのお母さんと似てるよ。双子とまでは行かないけど」

「私はお母さんほど綺麗じゃないからなあ。似てるって言われるのは嬉しいかも」

「嬉しいんだ。私はなんかやだなあ。お母さん可愛いとは思うけどお母さんに似てるって言われたらなんかやだ」

「でも似てるから仕方なーい」

「もう! きらなちゃん!」


 私は目を瞑ったままきらなちゃんをこしょこしょした。


「あははは、わかったー! わかったから! ストップストップ!」

「よかろう」

「ふう、ね、目だいぶマシになってきてない?」

「そう言われてみればだいぶマシになってきたかも」

「あっち行って大丈夫かな。まだ玉ねぎ攻撃残ってるかな」

「わかんないけど早くカレーつくんないと」


 リビングのドアが開いて、きらなちゃんのお母さんがリビングに入ってきた。


「あら、もうカレーできたの?」

「いや、今から炒めるとこ」

「こんなところでなにやってるの? 休憩? もう八時よ?」

「うん、玉ねぎにやられたから休憩してたとこ。今から作りまーす」

「はーい」

「行こ、たかしちゃん。いつの間にか八時になってた」

「うん。もうきっと玉ねぎ大丈夫だよね」


 私たちはそそくさとキッチンに戻った。鍋には大量の具材が山積みになっている。


「えーっと、パッケージパッケージっと。次は炒めるね。火はこうやって捻って」

「きらなちゃん! サラダ油を熱しって書いてある! 油ひいてない!」

「本当だ! もう遅い? 上からかけてもいいかな?」

「多分大丈夫じゃないかなあ。入れないよりは入れた方がいいかも」

「そだね。大さじ二ってどれくらい?」

「えっとね、さっき引き出しの中に大さじ入ってた気がする」

「これ?」

「それ小さじだよう。大さじはこっち。きらなちゃん絶対わかっててやってるでしょ」

「あはは、バレた。じゃ入れるねー」

「はあい」


 きらなちゃんはたらーっと大匙の中に油を注ぎ込んだ。満杯になった大さじから、今度は鍋の中にたらーっと入れた。それを二回繰り返した。

 だんだんジューッという音が聞こえてきた。鍋が熱せられて何かが焼ける音だ。


「きらなちゃん、混ぜて混ぜて! 焦げちゃう!」

「はいはいはい。いよいしょっと。こらしょっと。これ混ぜるの大変だわ。これお箸じゃない方がいいかもしれない」

「ヘラとか?」

「そうそう、わかんないけど、お箸折れちゃいそう」

「わかった、探してみるね」


 ヘラ……ヘラ……。


 私はさっきの引き出しの中を探してみた。

 木の。ううん、竹の?平たい部分に丸く穴が空いたヘラを見つけた。


「きらなちゃんあったよ!」

「はい、ありがとう。これなんで穴空いてんの?」

「さあ、最初っから穴空いてたよ?」

「お母さん、どういう使い方したらこんなところに穴開けるんだ?」

「ふふふ、綺麗に丸いから多分そういうものだと思うよ」

「そうなのか。まあいいや、これいつまで炒めたらいいの?」

「えーっとねえ……」


 パッケージにはいつまで炒めたらいいのか書いていなかった。


「かいてないねえ。でもこの後水を入れて煮込むって書いてあるし、具材が柔らかくなるまで煮込むとも書いてあるから多分そんなに炒めなくていいんじゃないかなあ」

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