お鼻もずるずるだ
「たかしちゃーん、どこー」
「ここだよう。きらなちゃんこそどこー。きらなちゃん、ティッシュ持ってきてー」
「はーい。ああ、目を開けたらすごく痛い。ティッシュティッシュー」
きらなちゃんの声が遠くなっていく。しばらくして、きらなちゃんが戻ってきた。
「はい、ティッシュ」
「ありがとー」
目を拭いて。鼻をチーンと噛んだ。そうだった、ゴミ袋ないんだ。私はポッケにティッシュを忍ばせた。手を洗ってから再度玉ねぎと向き合った。
「頑張れたかしちゃん。負けるな! もうちょっとだ!」
「うん、頑張る!」
私は痛い目を頑張って開けて、玉ねぎを切った。
痛い、だけど負けない。
私は玉ねぎを二個半切り終えた。
「たかしちゃん、おめでとう」
「ありがとう」
きらなちゃんはまだ切ってないのに涙と鼻水で溢れていた。
「つぎ、きらなちゃんの番だよ」
「うん、任せて。おおおりゃあああー」
口では威勢のいい大きな声を出しているけれど、手はゆっくり動いていた。ちょっと面白い。
あれ?
「き、きらなちゃん?」
「なに?」
きらなちゃんは玉ねぎを切っているのにこっちをむいた。その目は瞑ったままだった。
「わああ、危ないよう! ちゃんとお目々開けて! ちゃんと包丁見て!」
「だってええ、目が痛くて開けられないんだもん! 切れてるでしょ? 切れてるでしょ?」
「き、切れてるけどだめええ! 指切っちゃうからあああ!」
「わかったわよ。目を開ければいいんでしょ、目を」
きらなちゃんは目を開けてくれた。涙がポロポロ流れ落ちている。お鼻もずるずるだ。
「はい、きらなちゃん、ちーん」
「ちーん」
私はきらなちゃんの鼻をかんであげた。これでスッキリするかな。ティッシュはポケットへ。後でゴミ箱に捨てれば問題ない。
「あー、なんか、鼻かんだら余計に目が痛くなってきた気がする」
「ええ、ごめんなさい。鼻かんだらスッキリするかと思って。うう、私もお目々痛いよう」
「後一個、後一個切るだけだから」
「頑張れきらなちゃん!」
トン、トンとゆっくり包丁で玉ねぎが切られていく。きらなちゃんも心配だけど、私もまだ目が痛い。包丁とまな板が二つずつあれば、もっと早くに切り終わってたのに。
「ん?」
「どうした……たかしちゃん」
きらなちゃんの声はもう満身創痍だった。
「もう一個まな板ってある?」
「あるよ」
「包丁は? もう一本ある?」
「あるけど……。どうしたの?」
「じゃあ二人で切れば早かったじゃん!」
「本当だー! でももう切り終わったしもう遅い!」
切り終わった玉ねぎは鍋に放り込まれた。
「えーん、たかしちゃーん、目が痛いよう」
「きらなちゃーん、私も痛いよう」
「よしよし」
「なでなで」
「ちょっと休憩しよっか……」
「そうだね……」
私たちは鍋をほっぽらかして、ソファに座って目を閉じた。




