きらなちゃんが包丁を握り締めたまま、包丁ごと私の方に振り返った
「はいはい、次私にんじん切りたーい」
「はいどうぞー」
包丁をまな板の上に置いてきらなちゃんに場所を譲った。やることがなくなった私はきらなちゃんがにんじんを切るところを見ることにした。
「よいしょっと」
きらなちゃんがにんじんを横むけに置いて切った。その次も、その次も、転がりそうな人参を手で押さえながら切った。
「きらなちゃん、きらなちゃん、切った断面を下にすると転がらないよ」
「お、そうか、なるほど、こうね?」
「そうそう」
見ていてちょっと怖かったけれど、ちゃんと切れていた。
「きらなちゃん、前に包丁持ったら振り回しちゃうって言ったの覚えてる? 全然そんなことないね」
「なに?」
「わっ」
きらなちゃんが包丁を握り締めたまま、包丁ごと私の方に振り返った。
刺さるかと思った。刺さるかと思った。
「もう、きらなちゃん、包丁こっちに向けたら危ないよう。怖かったあ」
「ごめんごめん、集中してたから。でなにって?」
「ううん、なんでもない。きらなちゃんは包丁振り回すんだなあって思っただけ」
「なに言ってるの、そんなことしないよ」
「今したでしょー! 危ないんだからね! 早くにんじんを切りなさい」
「はあい」
きらなちゃんは不器用な手つきでどんどんと人参を切っていき。鍋の中はじゃがいもとにんじんで一杯になった。
「よーし、にんじん終わりー。じゃあ次玉ねぎだね。あ、お肉もいるんだった。お肉―お肉―」
きらなちゃんは冷蔵庫を開けて中をじっくりと確認した。
「あったあった。お肉ってこれでいいんだよね?」
値札には豚コマ切れと書かれていた。
「うん、これでいいんじゃないかなあ」
「と言うことは、今日はポークカレーだ。このお肉何グラムあるんだろう。確かお肉はー……五百グラムね」
「値札のとこに書いてないかな?」
「んー? どれどれ、五百三十八グラムって書いてあるわね」
「ちょっと多いね」
「三十八グラムよけた方がいいかな?」
「うーん、でも三十八グラムだけ残しておいても使い道なさそう」
「確かに、じゃあ全部入れるかー! 今日は具沢山だ!」
きらなちゃんはお肉のラップを外してどさっと鍋の中に放りこんだ。
「それにしても大きい鍋だねえ」
「うち、カレーにしたら三日くらいカレーだからね、多分カレー用の鍋だと思う。あ、あとおでんとかにも使ってたような」
「なるほど……。玉ねぎは? どうする? どっちが切る?」
「うーん、そうだなあ、じゃあ半分たかしちゃんで、半分私が切ろう。先行はたかしちゃんで」
「ふふ、はあい」
私は玉ねぎを切り始めた。まず縦に切って。横に倒して、それからまた縦に切っていく。一センチぐらいのサイズになればいいかな。ザクザクと玉ねぎを切る。
「う、目が」
「どうしたのたかしちゃん、あ、目が」
玉ねぎの何かにやられて二人とも目が開けられなくなった。




