遺伝かあ
私の着ているスクール水着の胸元を引っ張って、その隙間に水を流し込んだ。水着から当たる水と違ってさっきより冷たく感じる。
「にゃあー、なにするのさー! えっちー!」
「あははー。私もやろーっと」
きらなちゃんは自分で自分の水着に隙間を作ってそこに水を注ぎ込んだ。
「はあー、気持ちー。たかしちゃんおりゃー」
「うわー」
何時間入っていたんだろう。多分二時間くらいそうして遊んでいた。手がもうおばあちゃんみたいにシワシワになっていた。
「ちょっとー、あなたたちー」
お風呂場の外からきらなちゃんのお母さんの声がした。
「もう六時だからお風呂入ってから上がってきなさい」
「もう六時だって」
「早いねえ。そういえばちょっと寒くなってきたねえ」
「はーい。お風呂入りまーす」
「お風呂上がったらご飯よろしくね」
「はいはーい」
きらなちゃんのお母さんが、脱衣所から出ていった気配がした。
「仕方ない、お風呂入ろっか」
きらなちゃんは水着を脱ぎ出した。
「なななな、なにしてるのきらなちゃん?」
「なにって、お風呂に入るんだから水着脱がないとでしょ?」
「あ、そっか。お風呂入るんだもんね。水着着てたら体洗えないや」
一度、きらなちゃんとお風呂に入ったことがあるけど、まだやっぱり裸ん坊は恥ずかしい。私は水着を脱いで、体を隠しながら浴槽の淵に置いてある綺羅名ちゃんの水着の上に乗せた。
「んもう、なに隠してんのさ。さっさと入っちゃうよ、ほら、頭かして」
私を椅子に座らせて、きらなちゃんは頭を洗ってくれた。
「あったかいねえ」
「さっきまで水だったからね。これで風邪ひかないわね」
ごしごしわしゃわしゃ、泡たっぷりで洗ってくれる。
「ほんと羨ましい髪質ねえ。ブリーチすると傷むのが難点よね。私も昔はこれくらいツヤツヤだったのになあ、まあ癖っ毛だからたかしちゃんみたいにツヤツヤきらきらストレートヘアとはいかないけど」
「私は癖っ毛羨ましいなあ。真っ直ぐなんだもん」
「いいじゃん、まっすぐ。癖っ毛は大変よー、あっちへうねり、こっちへうねりするからね」
「そうなんだ、寝癖とかほとんどつかないなあ」
「ほんっとうらっやましい! ということで、流しまーす」
じゃーっと髪から泡が取り除かれていく。きらなちゃんのおかげで私の頭が綺麗になった。
「はい、次はトリートメントねー」
「はあい」
ゆっくり丁寧に髪にトリートメントを伸ばしてく。きらなちゃんに髪を触られるのは気持ちがいい。あんまり髪の毛って誰かに触られたくないけど、きらなちゃんだったら全然嬉しい。あと、ただしくんも……。
「あー、今忠のこと考えたでしょ? 私わかるんだからね」
「えええ、なんでわかったの? きらなちゃんエスパー?」
「ふふん、内緒よ。教えたらもうそんな反応しなくなっちゃうかもしれないからね」
「ええ、反応? なになに、私普通にしてるよ?」
「うん、だからいいんだって。気にしないでねーっと。はい、終わり。次私の頭お願いしまーす」
「ううん、なんだろう。私なにもしてないんだけどなあ。じゃあ流しますねえ」
「はあい。はあー、あったかーい。さっき水浴びした分より暖かく感じるわね」
「でしょー」
きらなちゃんは両足を伸ばして、手を足に挟んで伸びをした。
シャンプーを手に取ってわしゃわしゃときらなちゃんの頭を洗い始めた。
「きらなちゃんは本当にスタイルいいねえ」
「でも腕とか足とかはたかしちゃんとあんまり変わんないよ?」
たしかに腕とか脚とかはあんまり私と変わらない。ちょっとむっちりしてる。でも……。
「お腹がほっそいのが羨ましいの。くびれなんてキュってしてるじゃん」
「別に何にもしてないんだけどねえ。私のお母さんがそうだから、多分遺伝だよ」
「遺伝かあ、きらなちゃんのお母さんはお胸もおっきいもんね。お腹もお胸も遺伝かあ」
「遺伝だねえ。麗夏は突然変異っぽいけど」
れいかちゃんは本当にちっちゃいもんなあ。
「って、こら。れいかちゃんのお胸については触れない約束だよ」
「そうだった、聞かなかったことにして!」
「もう、もしかしたら言っちゃうかもしれない」
「あはは、たかしちゃんは真面目だなあ。別に言ってもいいよ。私が怒られて終わりだし。悪いのは私だしねー。あっ、目に入った!」
急に声を上げたきらなちゃんは目をゴシゴシと擦った。
「ええ! きらなちゃんお目々開けてたの?」
「うん、開けてた。ていうかこないだたかしちゃん家でお風呂入った時も目開けてたよ?」
「だめだよう、ちゃんとお目々瞑らないと。痛いでしょーよしよし」
「私一人で入る時も目開けてるよ? たまに入るし痛いけどなんかお風呂場で目を瞑るの苦手なんだよねえ」
きらなちゃん……カッパの時も怖がってたし、もしかして。
「怖いの?」
「うっ、この話はしなければよかった」




