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たかしちゃん  作者: 溝端翔
プロローグ
2/162

やっぱり男の人の名前なんだ

 歴とした女の子として産まれた私に『たかし』という名前を付けたのは、お母さんやお父さんではなく、お婆ちゃんだったことを知ったのは、私が小学三年生の時だった。


 思い出すのも嫌になるけれど、道徳の時間にみんなの名前発表会というものが行われた。自分の名前の由来や意味を自分でおうちの人に聞いて、調べて、それをクラスメイトの前で発表するという授業だった。


 中学二年生の現在もそうだけれど、この男の子みたいな名前ってだけでずっといじめられていた私には、友達の一人もいなかった。ひとりぼっちだ。

 名前の授業なんて、きっと馬鹿にされるに決まってる。もちろん、みんなの前で発表なんてしたくない。

 だけど、私も自分の名前の意味を知らなかったし、どうして女の子の私に男の子の名前をつけたのか、いつか聞いてみたいと思っていた。


 小さい頃に何度も聞いたけれど、お父さんもお母さんもいつも妙な感じではぐらかした。

 大きくなってから、この名前のせいでいじめられる度に、なんでこんな名前にしたの?って何度もお母さんを問い詰めたくなったけれど、そうすることで私がいじめられっ子だとお母さんに気づかれるのが怖くて出来なかった。


 やっと自然に聞ける機会がやってきた。


 私はなんでこんな名前なんだろう。私には想像もつかないけれど、きっと何か素敵な由来があるに決まってるんだ。


 だけど、少し不安な気もして、ドキドキしながら発表の時に使うプリントをお母さんに渡すと、お母さんはどこか嬉しそうに笑って教えてくれた。



「たかしちゃんのおばあちゃんのおじいちゃん。たかしちゃんにとってひいひいじいちゃんが、産まれてすぐに大きい病気を抱えてしまったの。

 ひいひいじいちゃんは毎年、今年が最後かもしれないって言われながらも『わしは長生きする』って言ってね。懸命に生きて、気がつけばねえ八十二歳まで長生きしたの。

 ダメだって言われても諦めずに何度も何度も『長生きする』って言ってね。すごい人だったの。

 そのひいひいじいちゃんの名前がたかしだったの。たかしちゃんと違って、貴い志って書いて貴志だったんだけどね。

 それからうんと時間が経って産まれてきたたかしちゃんはね、未熟児だった。おばあちゃんは、その時のたかしちゃんとこれからのたかしちゃんを心配して、自分のおじいちゃんと同じくらい、強くてたくましい子に育って欲しいって願いを込めて、『たかし』って名前を付けてくれたの。

 でもね、なんでひらがなかっていうと、漢字じゃあちょっと可愛くないかなってお母さん思って。ひらがななら可愛く見えるから、おばあちゃんにお願いしてひらがなにしてもらったの。

 だから、この『たかし』って名前がつくには、何十年って歴史があって、いろんな人の想いがこもっているの。

 お母さんもお父さんも、あなたの名前が大好きなのよ。本当に、たかしちゃんが生まれた時は大変だったんだから」



 さっきまでただ笑って話していたお母さんが目を潤わせながら、それでいてちょっと得意げに教えてくれた由来に、その時の私が感動することはなかった。


 ただ一つ、やっぱり男の人の名前なんだ。


 そうなんだ。


 と思ったことを今でも鮮明に覚えている。


 これじゃあとてもみんなの前で発表なんてできない。学校では絶対に男の人からとった名前だなんて言わないでおこうと思った。


 結局、私は発表当日、初めて仮病を使って学校を休んだ。それ以来みんなは私の名前のことを大っぴらに揶揄うようになった。


 あの授業は私みたいに変な名前の人間をいじめるためにあったんだと私は思った。

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