うちのお風呂場で水浴びするの!
「あっついねえー」
「うん、本当に暑いねえ」
今日も快晴で、気温も三十度は軽く超えてそうだった。
「私、喉乾いてきちゃった」
「私もー。こんなに夏のお外で遊んだの初めてかもってくらい遊んだー」
「ええー? 一時間くらいだよ?」
「だって、私お外出ないもん。いっつもお家でのんびりだよ」
お裁縫したり、お勉強したり、リビングでゴロゴロしたり。春夏秋冬いつでもそんな感じ。
「それもいいけど、暑い中遊ぶって最高じゃない?」
「夏はお肌が日に焼けてヒリヒリするからなあ」
今もほっぺがヒリヒリしている。
「そう、それがなんかさ、夏! って感じがして好きなんだよねー」
きらなちゃんはでも、なんか夏が似合う気がする。冬って感じはしない。
「私は冬の方がいいなあ。暑いのはちょっと苦手かも」
「冬もいいよね。雪合戦とかして!」
「雪降るの?」
「降るよー、積もるよ。雪合戦し放題だよ」
雪降るんだ。やったあ。
「わあ、それは楽しみだー。東京じゃああんまり降らなかったから嬉しいな。なんだか雪のお話してたからか涼しくなってきたかも」
「あはは、そんなわけないじゃん。ねえ、汗かいた?」
「うん、だくだくー。きらなちゃんのお洋服汚しちゃった」
服が体に張り付くくらい汗をかいてしまった。きらなちゃんの服だって忘れてた。
「いいよいいよ。洗えば済むことだし。それよりさ、ホース持ってきて水浴びしちゃう? 涼しいよー?」
「わあ、いいねえ。でもきらなちゃんのお母さんに怒られちゃわない?」
短期間で三度も水遊びしたらさすがにすごく怒られそう。
「確かに。さすがに許してもくれなさそうだなあ。じゃあさじゃあさ、こう言うのはどう?」
「なになに?」
「うちのお風呂場で水浴びするの!」
「わー、それなら怒られないですむね! でも裸ん坊で遊ぶのは恥ずかしいなあ」
さすがに一緒にお風呂に入ったことがあっても、裸ん坊で遊ぶのは恥ずかしすぎる。
「じゃあ水着着るかー。たかしちゃんの学校の水着取りにいこ」
「そうしようそうしよう! それなら恥ずかしくない!」
私たちは夏の太陽が照りつける中私の家に向かって歩き出した。きらなちゃんの家に泊まりにきたのに、私の家に帰るのはもう二回目だ。ふふふ、なんだかおかしな感じがする。でも、私のお家ときらなちゃんのお家が近くってよかった。おかげでいろんなことができるもん。
汗だくで、きらなちゃんはサッカーボールを持ったまま、歩いた。
「ただいまー」
「あら、また帰ってきたの?」
お母さんがいつもみたいに居間から顔を出した。
「今度は水着取りに来たの。きらなちゃん、ちょっと待ってて、とってくるね」
「はーい」
家の中も暑い。外よりは涼しいけれど、それは階段までだった。私の部屋に入るとムッとした重たい、暑い空気が待っていた。急いで準備しないとどんどん汗だくになっちゃう。
箪笥の引き出しの、一番下から、前の中学校で使っていたスクール水着を取り出した。一年生の時に使ってたやつだけど、まだ着れるはず。
でもこのまま持って歩くの恥ずかしいなあ。短パンのポッケに入るかな。
グイッとポッケにねじ込んだ。ちょっと出てるけど、履いてない服のおかげで隠せた。
これなら大丈夫か。
汗を拭って玄関に戻った。階段はやっぱりぎしぎし音を立てる。きらなちゃんのお家とは大違いだ。
「お待たせー」
「よし、じゃあ行こっか」
「うん。いってきまーす」
「はいいってらっしゃーい」
お母さんが手を振ってくれた。私もきらなちゃんも手を振りかえして外に出た。私たちはきらなちゃんの家に向かって歩き始めた。




