えええ、嘘、見えたの?
「えっとね、足でボールを止めることをトラップっていうの。ボールを止める時もね、足の側面にボールを当てると綺麗に止められるよ」
「側面で……。なんでトラップって言うんだろう。この待ってる足が罠なのかな?」
「さあ、それはわかんないわ、でもトラップって言うのよ」
「そっか、わかんないのか……。うん、やってみる!」
「じゃ、蹴るよー!」
きらなちゃんはボールを蹴った。あっという間に私の右足の元に転がってきた。
側面、側面。
私は転がってきたボールに足を当てに行った。
「あっ」
蹴っちゃった。
ボールは左方向へ飛んでいってしまった。きらなちゃんがボールを追いかけて、取って戻ってきた。
「あはは、たかしちゃん蹴っちゃダメだよー。止めるの。足はちょっと引くくらいで止めるんだよー」
「ふふふ、蹴っちゃった。えっと、側面で、止める。足をちょっと引く」
「んじゃ、いくよー!」
今度も右の足元にボールが転がってきた。きらなちゃんはコントロールがすごい。そんなことを考えてるとすぐさまトラップの時間がきた。止める。ちょっと引く。止める。
「あっ」
足に当たったボールが左に転がって行った。うーん、難しい。蹴るのは簡単だけど、止めるのはとても難しい。
「惜しい、惜しい、もうちょっと。今度は蹴ってきてー!」
「はあい」
私はボールを置き直してきらなちゃんに蹴り返した。
あ、側面、忘れてた。
ボールはあらぬ方へ飛んでいってきらなちゃんはそれを走って取りに行った。
「あはは、たかしちゃん忘れてたでしょう。ボールは側面で蹴るんだよ。つま先で蹴る技もあるけど、今日は側面で! それに、その蹴り上げる蹴り方、絶対スカートでやっちゃダメだからね。パンツ丸見えになちゃってる」
「えええ、嘘、見えたの?」
「いや、今はハーフパンツ履いてるから見えないけど、スカートの時は見えるよって話」
「ううう、気をつける……。側面、側面だよね?」
「うん、側面で蹴るの。んで、側面で受ける」
「側面で蹴って、側面で受ける」
「いくよー!」
「はあい」
本当にきらなちゃんはコントロールがいい、私の右足ピッタリに目がけてボールが転がってくる。側面、側面。
「わっ」
足に当たったボールは今度も左に転がって行った。くそう、だめだ、全然できない。やっぱり運動音痴なんだ。さっきの運動音痴じゃないと思ったのは間違いだ。
「ナイストライだよたかしちゃん! こっちに蹴ってー!」
「はあい」
側面、きらなちゃんに届くくらいの強さで、側面。
蹴り上げたボールはコロコロと転がって、きらなちゃんのちょっと横にたどり着いた。
「すごいよたかしちゃん! 私のとこきたよ!」
「でも、ちょっと横だった……」
「こんぐらい誤差の範囲内だよ! それにしてもトラップがうまくできないねえ。どうする? トラップの練習する? 蹴る練習する? それともこのままパスっこする?」
どうしよう、トラップ、できるようになりたい。けど、蹴るのもやりたい。
「こ、このままパスっこする」
「オッケー! じゃ、いくよー。ほい!」
多分、一時間くらい、きらなちゃんとボールを蹴っていた。何度も何度も蹴って。変なところに飛んで行ったりしたけれど、何度かきらなちゃんの足元に蹴ることができて嬉しかった。でも、トラップは一度も成功しなかった。全部ボールが左に転がっていった。トラップって難しい。できるようになりたいって思った。
私たちは暑くなって東家の下に避難した。




