もしかしたら河童かもしれない
「なんだー、CMの後だって。見分ける方法ってなんだろうね」
「んー、河童でしょ、嘴……甲羅……皿……、うん。さっぱりね」
「ふふふ、だよねえ。そもそも本当に河童なんているのかなあ」
「んー、少なくとも私は見たことないねえ」
「だよねえ。私も見たことないや」
「まあなんせ、未確認生命体だからね」
「あーそっか、未確認なんだ。じゃあなんでさっきのアナウンサーさんは見分け方とか知ってるんだろう。見たことあるのかな。」
「さあ、そもそもテレビが勝手に言ってることだからね」
「ってことは嘘なの?」
テレビなのに嘘ついちゃっていいの?
「いや、それはわかんないけど……。て言ってる間にはじまったわね」
「ちゃんと見なきゃ」
私ときらなちゃんはテレビに釘付けになった。
『はい! ということで?』
『河童と人間の見分け方についてですね。僕早く知りたくてうずうずしてますよ』
『そうですね、じゃあ、本題、行っちゃいましょう! 河童と人間の見分け方。それは……』
『……それは?』
『簡単です、よく水辺に近づく人です』
『水辺に?』
『そうです、河童の変身は、皿が乾くと解けちゃうんです。だから、常に頭の水分を保っておかなくてはいけません。例えば噴水の近くに座りたがるだとか、常に飲料水を持っている。だとか。特に怪しいのは、夏場、頭からよく水をかぶっている人ですね。特にスポーツ選手に多いですが、河童は身体能力が高いため、スポーツ選手になりすましている可能性は十分に高いと思います。と、いうことで、見分け方としましては水を頭にかぶる人。ですね。あとはきゅうりを大量に買い込む人とか、きゅうりをじっくり吟味して購入してる人も怪しいですね』
「だってー。水を頭からよくかぶる人だって。あときゅうりだって。きゅうり農家さんとかも河童だったりするのかなあ。ねえきらなちゃん?」
隣のきらなちゃんの顔を見ると、少し青ざめていた。
「ど、どうしたの……? きらなちゃん?」
「しゅ、蹴人。もしかしたら河童かもしれない」
「えええ!」
私はびっくりした。
なんで?
なんで阿瀬君が河童なの?
「なんで? そんなの気のせいだよ」
「だって、蹴人と外で遊ぶ時、よく頭から水被ってるの。冬場でもやったりするからやめなさいって言ってたんだけど、そういうことだったんだ……。うわーん、私の初恋が河童だったよー」
きらなちゃんは私の膝に泣きついた。
「そ、そんなことないよ。たまたまだよ。阿瀬君が河童なわけないじゃん。れっきとした人間だよ。だって、小さい時から一緒に育ってきたんでしょ?」
「うん、一年生の時から……でも、その時から河童だったのかもしれない」
「うう、嘘だよ! こんなテレビ番組嘘だよ! こんなの消しちゃおうね。……えっと」
リモコンを手に取ったけど、操作の仕方がよくわかんない。でも、テレビの電源を切るボタンはなんとなくわかった。私はテレビの電源を切った。
「嘘だからね? 河童なんていないからね?」
「そ、そうかなあ」
「元気出して! いつものきらなちゃんなら、こんなの嘘だ! って言い放ってるよ。ほら、言ってごらん?」
「こ、こんなの嘘だ?」
全然覇気がない。こんなのいつものきらなちゃんじゃない。
「ううん、もっとはっきり。こんなの嘘だ! って言うの」
「こ、こんなの嘘だ!」
「そうだそうだ!」
「か、河童なんていないんだ!」
「そうだそうだ!」
「でも本当は河童だったらどうしよー」
「んもー、よしよし。河童じゃないからねえ、阿瀬くんは人間の男の子だからねえ」
きらなちゃんの頭をなでなでしてあげる。すんすんときらなちゃんは鼻を啜っていた。
「んんん、私! 聞いてくる!」
「えええ!」
「だってじっとしてらんないもん、たかしちゃん待ってて、私行ってくる!」
ガタン!
バタン!
と大きな音を立てて、きらなちゃんは一人で家から飛び出していった。多分、阿瀬君の家に行ったんだと思う。