絶対恥ずかしいことだ。絶対恥ずかしいことだ
「えええ、いいよう。きらなちゃんのだもん。もし着たいと思ったら貸してもらうことにするよ」
「じゃあさじゃあさ、プール行く日、私はこの服着ていくから、たかしちゃんはその服着て行こうよ!」
「えええ! こ、この服着ていくの?」
「そうよ! 新生たかしちゃんをみんなに見せてあげるのよ!」
新生たかしちゃん……。
生まれ変わった私……。
普段着ない服を着て、みんなと一緒に遊びにいく……。
普通に考えたら恥ずかしい。恥ずかしいけど、ちょっとやってみたいような気がする。でも、こんなに足出てる。やっぱり恥ずかしい。こんなに足出して、みんなに見られるなんて、考えられない。
チラッときらなちゃんの顔を見た。
わ、ダメだ、これはもうやるんだって言う目だ。有言即実行の顔だ。私、絶対この服着ていくんだ。
「は、恥ずかしいからやめない?」
「恥ずかしくないわ! だってこんなにかわいいんだから」
あああ、やっぱりそうだ。もうだめだ、私はこの服を着てプールに行くんだ。もう決まったんだ。絶対なんだ。じゃ、じゃあ覚悟しなきゃ。恥ずかしくない、恥ずかしくない。このお洋服は普通のお洋服なんだ。
よし。
やっぱり恥ずかしい。
ダメだ、もう考えないようにしよう。心を無にしよう。恥ずかしいとか恥ずかしくないとか、そんなんじゃない。何もないんだ。
「ねえ、ちょっといいこと思いついたんだけど、いい?」
「な、なに?」
絶対恥ずかしいことだ。絶対恥ずかしいことだ。きらなちゃんは絶対恥ずかしいことを提案してくる。もう私にはわかる。
「このまま金子さん行かない?」
「やっぱりー! きらなちゃん、それは恥ずかしいよう!」
「練習だよ練習。大丈夫大丈夫、行ってお菓子買って、帰ってくるだけだから」
「そ、それが恥ずかしいんだよう」
「どうせプールの日には着ていくんだよ? それにプールになったら水着だよ? その前にちょろっとだよ。たかしちゃん、お財布持ってきた?」
「持ってきたけど……」
「よし、じゃあ行こ! そうと決まれば善は急げだ!」
「ううう、恥ずかしいよう。だって、これ、履いてないみたいなんだよ?」
「でも、ズボン履いてるじゃん?」
「そ、そうだけど……。足もこんなに出てるし」
「足くらい出すよー。水着になったら全部出すんだよ? そう考えたら隠れてる方だよ」
た、確かに。水着になったら足も腕も、全部出るんだ。水着によってはお腹だって……。そもそもプールが恥ずかしくなってきた。ていうかプールなんてずっと恥ずかしい。男の子の友達も一緒に行くんだった。わあ、パニックだ。
ううう。
「さっ! 行きましょ!」
きらなちゃんがカバンを持って部屋のドアを開けて外に出ていった。こうなったらもう、私は行くしかない。大丈夫、恥ずかしくない、大丈夫、恥ずかしくない。
「き、きらなちゃん、待ってよう」
私はカバンを肩から下げてきらなちゃんの部屋を出た。綺麗な階段を降りると、リビングにきらなちゃんが入っていった。私はどうしたらいいんだろう。
「ちょっと金子さん行ってくるから。またすぐ帰ってくるからね!」
きらなちゃんはお母さんに挨拶をして廊下に戻ってきた。
「じゃ、いこっか。手繋いでいく?」
「うん」
一人で歩くより、二人で手を繋いで歩いた方が恥ずかしくない。私は左手をきらなちゃんに差し出した。
「早い早い、まずは靴履かないと」
そ、そっか。恥ずかしいから早く手を繋ぎたい。私はきらなちゃんにつづいて靴を履いた。
「お、おじゃましましたー!」




