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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんとお泊まり
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ホットかアイスかだなんて初めて考えた

 きらなちゃんが玄関のドアを開けて家に招いてくれた。


「ということで、いらっしゃーい」

「お邪魔しまあす」


 八月八日水曜日、夏休み。


 私は初めてきらなちゃんのお家に遊びに来た。


 今までずっと遊びに行きたいなって思ってたけど、いつもきらなちゃんが私の家に遊びに来てくれるから、機会がなかった。

 今日はちゃんと遊びに来る約束してやっときらなちゃんのお家に遊びにきた。しかも、なんと、今日はお泊まりなのだ。きらなちゃんが私の家にお泊まりに来たことはあるけど、私が誰かの家に泊まることなんて一度だってなかったからとても緊張している。


 きらなちゃんの家は洋風で、二階建ての一軒家だった。中は壁紙が真っ白で、前に住んでいた家を思い出す。前の家も壁紙は白かったなあ。今は土みたいなザラザラした壁だ。


「綺麗なお家だねえ」

「そんなことないよ、ふつーふつー。私の部屋二階だけど、お母さんにあってく?」

「うん、お邪魔しますって言わないと。それから今日はよろしくお願いしますって」

「オッケー、じゃあ、こっち。こっちがリビングね」


 きらなちゃんのお母さんとお話しはちゃんとしたことないから緊張する。

 玄関から入って続く廊下を歩いてリビングに向かう。


「お母さーん、たかしちゃん連れてきたよー」

「お、お邪魔します」


 きらなちゃんのお母さんは大きなソファに座ってティーカップで多分紅茶か何かを飲んでいた。服も簡単なドレスみたいで、なんだか優雅だった。格好良かった。


 かちゃり。


 ローテーブルの上にティーカップを置いてきらなちゃんのお母さんは挨拶してくれた。


「いらっしゃい。今日はゆっくりしていってね」


 金色の短髪がとても綺麗で、きらなちゃんも短髪にしたらこうなるんだろうなって思った。きらなちゃんのお母さんは可愛いというよりも綺麗という言葉が似合うと思う。どうしたらこんなふうに綺麗になるんだろう。


「私の顔に何かついてるかしら?」

「あ、いえ、なんでもないです」


 見とれていたら指摘されてびっくりした。


「ふふふ」

「ねえお母さん、後で紅茶入れて持ってきてくれる?」

「紅茶ね、アイスの方がいいわよね?」

「たかしちゃん、ホットかアイスどっちがいい?」

「え、えっと、アイスで」


 アイスで。なんてお店でも言ったことない。そもそもホットかアイスかだなんて初めて考えた。うちではあったかいのか冷たいのだ。私が前に住んでいた家よりも、きらなちゃんの家の方がよっぽど都会なんじゃないかって思った。


「じゃあ、私たち部屋で遊んでくるから。ちゃんとノックしてね?」

「わかってるわよ。ちゃんとノックするわ」

「あ、し、失礼します」

「あはは、たかしちゃん緊張しすぎ。そんなに私のお母さんは怖くないよ。大丈夫。後でメイクの仕方とか教えてもらう予定だから、楽しみにしててね」

「メイク……。うん!」


 お化粧なんてほとんどしたことがない。やってもリップを唇にちょっと塗ったりチークをほっぺにちょんちょんってする程度だ。やり方を教えてもらえるのはとても楽しみだ。


「じゃ、上行こっか」


 階段を登ってきらなちゃんの部屋に向かう。私の家とは違ってぎしぎし言わない。いいなあ、綺麗だなあ。私の家はオンボロだ。いつ壊れるかわかったもんじゃない。


「なに? どうしたの?」

「きらなちゃんちの階段は綺麗だなあって。私の家の階段いつ底抜けちゃうかって思ってちょっと怖いんだよね」

「あはは、たかしちゃん家の階段すっごいぎしぎし言うもんねー。でも風情があってかっこいいと思うよ?」

「えー、絶対綺麗な方がいいよ。それに虫も出なさそうだし」

「たかしちゃんとこカメムシとかムカデとか普通に家の中に出るもんね。私びっくりしちゃった。でもゴキブリはうちでも出るよ? あいつらどっから入ってくるんだろうね」

「いやー、ゴキブリ。絶対いや!」

「まあ、お母さんがティッシュで摘んで外にポイってするんだけどね」

「ひゃあ、すごい、退治するんじゃないんだ」

「うん、逃すんだって。かわいそうなんだって。と言うことで私の部屋の前につきました。ちなみにこっちの部屋はお母さんとお父さんの寝室ね。勝手に入っちゃダメよ? 私でも勝手に入ったら怒られるんだからね」

「勝手になんて入らないよう」


きらなちゃんのお母さんとお父さんの寝室は絶対入らない様にしよ。間違えても絶対入らないようにしないと。


「それならよし。じゃあ、私の部屋にいざ出陣!」

「ふふふ、合戦が始まるの?」

「どうぞー」


 きらなちゃんはドアを開けて招いてくれた。

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