えっと、ただしくん、この子がきらなちゃん
「ほら、たかしちゃん、ただし連れてきて」
「えええ、私が?」
「だって彼女でしょ、ほら、行ってきて」
「ううう」
私は一人で体育館の入り口を覗いた。ちょうど休憩だったのか、ただしくんが一人でぶらぶらと歩いていた。
「た、ただしくん」
勇気を出して声をかけた。
「お? 竹達の彼女またきてるじゃん」
「行ってこいよ。呼んでるぞ」
そんな声が聞こえてくる。ただしくんもからかわれている。ただしくんが走って近づいてきてくれた。
「どうした? また見学か? 結構恥ずかしいんだけど……」
「ううん、今日は見学じゃなくて。ちょっとこっちきて」
手をとってただしくんを引っ張ってみんなの前に連れてきた。
「わ、手を繋いでくるとはなかなかやるわね」
「ラブラブだね」
わわ。
「ち、ちが、そんなんじゃないの」
慌ててただしくんの手を離した。
「さ、早く紹介して紹介してあげなさい」
「えっと、ただしくん、この子がきらなちゃん」
「それは知ってるけど……」
「私の紹介してどうするの? ボケてんの? これはボケなの?」
「あわわ、えっと、えっと。この子がひびとくん」
「日々人っす、よろしくっす」
「で、こっちがそらくん」
「宇野宙です。よろしくです」
「で、最後に、この子があーるちゃん」
「須田アールです。こんにちは」
「これが、私の部活の後輩たちです」
「お、おう。そうか……」
「たかしちゃん、忠の紹介もして!」
「えっ、あ、えっと、この人が……」
「この人って」
ただしくんが笑った。
「あ、ごめんなさい、この、えっと、この人が」
「もうこの人でいいよ」
「私の、か、か、彼氏の、ただしくんです」
「忠っす、よくわかんないけどよろしく」
「背高いっすね!」
「そうなんだよ、中学入ってかなり伸びた」
「バスケ部なんですか?」
「そうだよ、一応副キャプテンやってる」
「ってことは来年キャプテンっすか?」
「いやー、それはわからん。キャプテンって柄じゃないしなー。みんなは天文部だよな?」
「はい! 天文部っす」
「たかしのことよろしくな」
「もちろんっす」
「もちろんです」
「もちろんです」
三人は大きい声で返事をしてくれた。よかった。みんな仲良くできそうだ。ただしくんの顔も見れたし、もう大満足だった。
「じゃあ、私たちは帰るわね」
「おお、なんだ、これだけか」
「これだけよ。たかしちゃんに彼氏を紹介する訓練させたの」
「そ、そんな訓練いらないよう」
「まあたかし楽しそうだったからいいや。じゃあ俺も練習戻るわ、じゃあな」
ただしくんは私の頭をポンポンと叩いて体育館に戻っていった。なんだかみんなの視線が痛い。うう、恥ずかしい。頭ポンポンって、嬉しいけど、みんなに見られてしまった。
「はあー、いいなあ、私も彼氏欲しいなあ」
「私も、火星人のこと理解してくれる彼氏が欲しいです!」
「アルちゃん彼氏とか欲しいタイプだったんだ」
「そりゃあ女子ですからね、かっこいい火星人がいいです」
「それはもう火星人よ」
ふふふ、かっこいい火星人ってどんなだろう。
「俺も彼女欲しいっす」
「あんたは一生できないわよ」
「なんでっすか!」
「女子に近いからよ」
「近い方が話できるからいいじゃないっすか」
「どっちかっていうとみんな友達って思っちゃうパターンありそうね。それで言うならそらは静かすぎるわね、もう少し日々人を見習った方がいいわ。あんたたち、二人足して二で割ったらちょうど良くなりそうね」
「なるほど、宙を見習えばいいんすね、わかりました!」
「僕は別に彼女とかいらないですから」
「ま、そんな簡単には行かないと思っておきなさい。先輩のお言葉をしっかりと聞くことね!」
きらなちゃんは腰に手を当ててふんぞり返った。




