たかしちゃんはね、一口を百回噛むのよ
「ただいまー」
あーるちゃんが星見先輩と干柿さんにお弁当を渡して帰ってきた。
「じゃ、食べますか」
「いっただっきまーす」
お弁当の蓋を開けると、大きなシャケがご飯の上に乗っていた。それから、小さなハンバーグに卵焼きエビフライに唐揚げ。お野菜の煮物にお漬物。とっても豪勢なお弁当だった。
「うっまーい」
きらなちゃんがシャケを食べてほっぺたが落ちないように抑えている。
「うん、おいしいね」
「そうだ! あんたたち? たかしちゃんよりも遅く食べたら、私がなんでもいうこと聞いてあげるわ!」
「マジっすか? き、キスとかもありっすか?」
「ありよ。その代わり、食べるペースを変えないこと。最後の一口だけ残して待ってるとかは無しよ。普通にゆっくり食べるの、おっけー?」
「おっけーっす。よっしゃあ!」
結論、私の圧勝だった。
勝ったのに全然嬉しくなかった。
「たかしちゃんはね、一口を百回噛むのよ。毎回ね」
「なんすか、そんな健康的な食べ方は……」
「私も頑張ったのにー。綺羅名先輩に火星人のモノマネしてほしかった……」
「何よそのお願い、たかしちゃんが勝ってくれてよかったわ」
「私、普通に食べただけなのに……」
「たかちゃん食べるの遅いんだね」
「うん、昔っから遅いの」
「なんせ百回も噛むからね」
「百回は噛まないなあ。ていうか噛んだ回数とか数えてないからわかんないや」
そうか、みんなは数えないんだ。私は数えるからみんなも数えるもんだと思ってた。
「よーし、みんな食べたね。たかしちゃんが最後だもんね」
「うん、食べたよ」
「じゃあ、行こっか」
きらなちゃんは勢いよく立ち上がった。
「食休みとかしないんすか?」
「そんなの星見てたら出来るわよ」
「そっか、そうっすね」
ひびとくんは簡単に言いくるめられた。
「よし、行こ! たかしちゃん、麗夏! よーいどんよ!」
きらなちゃんは一目散に走り出した。屋上ってこの上の階だよね。
待って待って。
「私たちも行こ!」
「行こ行こ」
あーるちゃんたちも走り出した。麗夏ちゃんも先に行っちゃった。私はお弁当の蓋を閉めていたら完全に出遅れた。
「ま、待ってえー」
階段まで行くと、体の大きな細谷先生が立っていた。
「お、なんだ、もう食べ終わったのか」
「はい、今から屋上に行くところです」
「お、そうか、じゃあ後で先生も行くからよろしくな」
「はい」
先生は部室に入って行った。
あ、そうだ、置いてかれてるんだった。そういえば干柿さんたちはいいのかな……。ちょっと声をかけるかと考えたけど、二人に声をかけるのは恥ずかしくってやめた。多分、先生が声をかけてくれると思う。
私は階段を駆け上がり、屋上に続くドアを開けた。学校の屋上に上がるのは初めてだった。屋上って言ったら、デパートの駐車場くらいしか行ったことがない。屋上は落ちないように柵が張り巡らされていた。
「わあ、綺麗」
夜空に広がる星空は、部室のものとはまた全然違う綺麗さがあった。




