夏のってことは秋とか冬とかもあるのかな
「ひびとくん、ありがと」
「なんか……たかしちゃん先輩話しやすくなりました? 前はもっと、こう、人見知りみたいな……」
「先輩になんてこというの!」
「すんません!」
「でも、確かに前より話せるようにはなってるかも」
「そうかなあ?」
自分ではわかんないけど、でも、そう言われると話しやすくなってるかもしれない。
「忠のおかげかもね」
「そうかも」
多分、ただしくんとお話しするのが一番緊張するから、だから、他の人とは話しやすくなってるんだ。
「忠って誰ですか?」
「たかしちゃんの彼氏」
き、きらなちゃん。
「え! たかしちゃん先輩彼氏いるんすか!」
「いるわよ。ねえたかしちゃん」
「うう、きらなちゃん。流石にその話は恥ずかしいよう」
きらなちゃんが無垢な顔で私のことを見ている。わざとじゃないんだ。わざとじゃないんだよね。きらなちゃん。
「いいなあ。くそー、俺も彼女欲しいなあー」
「あんた、好きな人とかいんの?」
「いや、いるっすよ」
「じゃあ、告白すればいいじゃないの」
「いや、それは恥ずかしいっす。それに女子はみんな可愛いんで」
「どゆこと? 誰でもいいってわけ? よかったわ、たかしちゃんがこんな男に引っかからなくて」
「こんな男ってなんですか! ていうか、たかしちゃん先輩髪切ったんすね」
「うん」
「そうよ、可愛いでしょ。あげないわよ」
「短い髪も可愛いっす」
「あんた、喋る女子みんなにそんなこと言ってないわよね?」
「え? 言ってるっすよ。今日も可愛いとか、髪型似あってるとか」
「絶対引かれてるわよ。今私が引いてるからね」
「でも、可愛いって言われたら嬉しいよね」
れいかちゃんが言った。
「麗夏先輩も可愛いっす」
「ありがと。ひびくんもかっこいいと思うよ」
「マジっすか、ありがとうございます。良かったら付き合ってください!」
「あはは、ごめんね、私、恋愛はよくわからないから」
「くそう、フラれたっす」
「私、日々人がちょっと心配だわ……」
きらなちゃんが呆れ顔で首を横に振った。
「ねえ、きらなちゃん。今日見える星とか調べられないの?」
星が見たい。せっかく見るんだからどんな星があるのか知りたい。
「えーっと、待ってね、この辺に星座盤があったはずっと……。あーあったあった。これね、これをくるくる回して今の時期に合わせるのね。ちょっと待ってねえ。よし、これが今見える星座だね」
きらなちゃんは星座盤を合わせて机の上に置いてくれた。
「わあ、いっぱいあるんだねえ」
「見て、かんむり座だって」
「こぐまさんとおおぐまさんもいる!」
「トカゲもあるっすよ」
「トカゲさんはちょっと怖いなあ」
「ヘビもあるっす」
「ヘビはいやー!」
「日々人? たかしちゃんいじめてる?」
「いや、そんなことないです。つい」
「ついじゃないわよ。まったく、あ、はくちょう座がある。この頭のところがデネブだね」
「デネブ?」
「んー、よくわかんないけど、デネブっていう星があるの、で、ここのベガと、こっちのアルタイルで、夏の大三角形っていうのよ」
「わー、きらなちゃん物知りだねえ。夏の大三角形かあ。見えるかなあ」
「見えるわよ。多分、一番光ってる星の三つがそれよ」
「なるほどお」
夏の大三角形かあ。夏のってことは秋とか冬とかもあるのかな。
「そうだ。電気消していい?」
「好きっすね、綺羅名先輩」
「だって、麗夏見たことないし。先輩、電気消していいですか?」
「わ、星見先輩いたんだ。干柿さんもいる。全然気づかなかった」
星見先輩が手でグッドを作った。干柿さんは先輩にべったりと寄り添っている。
「ひっそりしてるからねえ。電気消していいって。カーテンは……しまってるわね。ちょっと麗夏、電気消すから目瞑ってて」
「え? 目瞑るの? わかった」
「いいっていうまで開けちゃダメよ?」
「はーい」




