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たかしちゃん  作者: 溝端翔
プロローグ
16/122

少しタンスの匂いがする

「たかしちゃんって男の子なの?」

「えー、ちがうよう。わたし女の子だよ」

「だってぼくのお母さんが言ってたもん、たかしちゃんは男の子の名前だって」

「そんなことないもん! 女の子だもん!」

「お母さんが言ってたんだもんねー。女の子にたかしなんて名前は変だって! たかしちゃんは本当は男なんだー! おっとこーのこー」

「ううう、ちがうもん。ちがうもん」

「たーかしちゃーんはー、おっとこのこー」

「うあああん、ちがうもーん」


 なんでそんなこと言うの?


 あきらくんのばか。


 わたしは女の子だもん。


 男の子じゃない。


 こんなにかわいいお洋服着てるもん!


「あらあら、たかしちゃん泣いてるのー?」


 お母さんだ。お母さんが迎えにきてくれた!


「おかあさああん!」

「よしよし。どうしたの?」

「あのね、あきらくんがね。わたしのこと、男の子だって」

「違うよねえ。たかしちゃんはとってもかわいい女の子だもんね。はいはい、お顔拭こうねえ。鼻チーンして。ほら、あきらくんにバイバイしてきなさい」

「やだ!」

「あらあら、じゃあこのまま帰るの? いいの?」

「いいの!」

「そっか、じゃあ帰ろうね。あきらくん、バイバイ」

「たかしちゃんのお母さんバイバーイ! たかしちゃんもバイバイ!」

「ベー!」


 ぷんぷんしながらお家に帰ると、わたしはおばあちゃんに抱きついた。ふわふわの服を着ているおばあちゃんの匂いはとても安心する。


「おばああちゃああん。あきらくんがね、あきらくんがね。うわあああん」


 おばあちゃんは静かに抱きしめてくれた。とてもあったかくて幸せな気持ちになる。


「はいはい、いいこいいこ。何があったかおばあちゃんに話せるかい?」


 おばあちゃんは優しく頭を撫でてくれた。おばあちゃんはいつもわたしの話を聞いてくれる。おばあちゃんはいつもわたしの味方だ。


「うん、あのね、あきらくんがね。名前がね、女の子なのにね、あのね。たかしってね、あきらくんがね、男の子って言ってね。わたし、悲しかったの。えっとね、えっとね。そんなのダメだよねえ?」


 おばあちゃんはぎゅうっと力強く抱きしめてくれた。「そうだねえ、そうだねえ」とおばあちゃんは言ってくれた。


「そんなのダメだねえ。なんでそんなこと言うんだろうねえ。お友達が悲しむようなことは言っちゃダメなのにねえ。たかしちゃんはかわいい女の子なのにねえ」

「わたしかわいいスカートはいてるもん。女の子だもん。うええん」

「そうだねえ、たかしちゃんは女の子だもんねえ。お名前もとっても可愛い。可愛いたかしちゃんだ」

「うん、わたし、かわいいもん」

「よしよし。かわいそうにねえ。こんなに泣いちゃって。せっかくの可愛い顔が台無しだ」


 おばあちゃんはハンカチで優しくぽんぽんとわたしの顔を拭いてくれた。


「じゃあちょっと待っててね、たかしちゃんにピッタリの物持ってきてあげるからね」

「うん? なあに?」


 よっこいしょ、とわたしを座布団の上に座らせると、おばあちゃんはおばあちゃんの部屋に入って行った。ズビズビと鼻を啜って、座布団の端から出ているピロピロした紐を触りながらおばあちゃんのことを待った。

 おばあちゃんは後ろに何かを隠しながら帰ってきた。


「おばあちゃん、何持ってるの?」

「ふふふ、何を持ってると思う?」

「お菓子? もしかしてポン菓子?」

「残念。ポン菓子じゃありませんねえ」

「えーなになに。見せて見せて!」

「よーし、じゃあ見せてあげようねえ。じゃーん」


 おばあちゃんは後ろから、少し大きな木箱を取り出してきた。木箱は綺麗に装飾されていてとても可愛かった。


「わあ、可愛い。中に何が入ってるの?」

「なんでしょう」

「ポン菓子じゃないんでしょう? じゃあ、お煎餅?」

「ううん、お菓子じゃないのよ。これはね、おばあちゃんが、たかしちゃんに悲しいことがあったらあげようと思ってずーっと前から用意しておいた物なの」

「悲しいこと……。今日悲しかった!」

「うん、だからね、おばあちゃんはこれをたかしちゃんにプレゼントしようと思います。可愛いたかしちゃんが、もっともっと可愛くなるための物だよ」

「なになに! 早く見せて!」

「じゃあ、開けようね」


 木箱が開いた。中には大きな赤いリボンが入っていた。


「わあ、可愛い!」


 勝手にリボンを手に取った。少しタンスの匂いがする。


 だけどとっても可愛い!


 わたしはこのリボンがもらえるんだと思うとウキウキした。


「これをね、つけてあげるからね。ほら、たかしちゃん後ろ向いてごらん?」


 座布団の上でくるりと回って、わたしは正座をした。


「ほらほら、たかしちゃん。いい子にじーっとしていないと付けられませんよ」


「はあい!」といい子にお返事をしたけれど、ドキドキしてじっとしているのは難しかった。


 おばあちゃんは櫛でわたしの髪を綺麗にといてくれた。少しくすぐったい。


「おばあちゃん、まだあ?」

「ほらほら、ちょっと待ちなさい。もう少しですからね」


 丁寧に髪をといた後、おばあちゃんは器用に私の髪を結んで、リボンを取り付けてくれた。


「ほうら、できた。可愛いねえ。鏡見てごらん?」


 わたしは勢いよく立ち上がって電話の横にある丸い鏡の前に立った。鏡の中には赤い大きなリボンをつけたとってもかわいい女の子がいた。


「わああ……!」


 お姫様みたい……。

 すごい。すごくかわいい!


 頭を振るとリボンの先がひらひらと揺れる。それもかわいかった。


 わたしは鏡の前でぴょんぴょんとはねた。


「リボンが似合うのは女の子の証拠だよ。そのリボンはたかしちゃんにあげるからね。また男の子だって言われたら、こんな可愛いリボンつけてるんだから女の子だよって言い返しちゃいな」

「うん! ありがとう、おばあちゃん!」


 大きなリボンの重たさが嬉しかった。かわいくて、わたしに似合っていて、嬉しくてその場をくるくると回った。

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