今日の晩御飯はお弁当なのかあ
きらなちゃんが教室を飛び出した。れいかちゃんも飛び出した。私も飛び出して「あ、ドア閉めないと」って思ってドアを閉めた。そんなことをしてるうちに、もう二人の姿は見えなくなった。
「待ってー」
私は見えない二人の後を追いかけて走った。
はあ、はあ。
天文部は旧校舎の三階にある。階段を走って上がるのは大変だった。本当に、こういう時運動ができればいいのにって思う。
「たかしちゃんビリー」
「私二着―」
「は、早いよう、二人とも。はあ、はあ」
「だって急がないとでしょ」
「そ、そうだけど……」
「よし、じゃあ入りましょ。失礼しまーす」
ドキドキ。れいかちゃんどうなるだろう……。やっぱり、怒られるかな。
「お、綺羅名先輩こんばんはっす。あー! たかしちゃん先輩久しぶりっす! 俺のこと覚えてますか」
「うん、覚えてるよ。ひびとくん」
ただしくんのことをただしくんって呼び始めて、他の男の子の名前を呼びやすくなった気がする。
「じゃあ僕は?」
「そらくん」
「私は?」
「あーるちゃん」
「いやったー!」
三人がハイタッチした。
「わっ、金髪だ!」
「あれ、知らない先輩?がいますね。誰ですか?」
「麗夏よ。よろしくしなさい」
「はい!」
「麗夏先輩こんばんは!」
「こんばんはー! ねえねえ、それって染めてるの?」
「いえ、地毛です。私ハーフなんです」
「すごー!」
「まあまあ、とりあえず、先生は?」
「あそこで寝てるっす」
「また寝てんの?」
顧問の先生、いつも寝てるなあ。私が初めてきた時も寝てたし。いいのかなあ。
「ちょっと細谷先生! 起きて! 来たよ!」
教室の隅っこで、椅子に座って眠っていた先生が起き上がった。
「おー来たか。これで全員か?」
「ばか! たかしちゃんもいるわよ!」
「お、高橋も来たか。久しぶりだなー。よし、これで全員揃ったな。じゃ、先生は七時にお弁当を取りに行くまで寝るから、後はよろしくな。屋上の鍵は開けておいたから。天体望遠鏡も出しといたから。好きに使っていいぞ。じゃ、おやすみ」
くうー。という寝息が静かな教室に響いた。細谷先生、夜寝てないのかな。眠るのすっごく早い。
「よし、麗夏のことはなんとかなったわね」
「これ、なんとかなったってことでいいの?」
「先生、寝ちゃったね」
「いいのいいの。てかお弁当のことすっかり忘れてたわ。たかしちゃん、私たちのお弁当、麗夏に分けてあげましょ」
「うん、いいよ」
今日の晩御飯はお弁当なのかあ。どんなお弁当かな。
「よし、じゃあ暗くなるまで喋ってましょ。よし後輩たち、おしゃべりするわよ」
私たちは背負っている鞄を、教室の隅に置いて大きなテーブルに座った。ちょうど椅子が六脚あって、みんな綺麗に座れた。
「あのー、麗夏先輩って二年生っすか?」
「うん、二年よ」
「じゃあ一個うえだ。麗夏先輩って天文部じゃないですよね? 本当は何部なんですか?」
「日々人のくせによくそこに気付いたわね」
きらなちゃんはびっくりした顔をした。ふふふ、私はそんなにびっくりすることじゃないと思う。
「水泳部」
「うわ、綺麗なやつだ。天文部には入らないんですか?」
「うーん、入れないなあ。天文部ないから」
「え? 天文部ありますよ。ここに」
「あ、ここじゃなくって、私の学校にはないの」
「私の学校? どういうことっすか?」
ひびとくんが頭の上にはてなを浮かべている。そらくんもあーるちゃんも頭の上にはてなを浮かべている。
「あー、あのね。私が説明するわ。麗夏はね、別の中学校の子なのよ。ここの中学校の生徒じゃないわ」
「あー、なるほど! だから天文部がないんすね。納得っす」
「えええええ!」
三人が声を揃えて大きな声を出した。




