そんな勇気が
「やった。開いてる」
靴を脱いで、上履きに履き替えた。上履きの中には何にも入ってなかった。ほっと心を撫で下ろした。
「私は靴下のままでいいや」
れいかちゃんは靴下のまま、二階の教室に向かった。
「鍵空いてるかなー」
きらなちゃんがドアを開くと、ガラガラと音を立ててドアが開いた。
「やった! 開いてる!」
私たちは教室に入った。
久しぶりの教室。私の席はあのままだろうか。私はゆっくりと自分の席に向かって歩いた。
うん、いつものまんまだ。何もされてない。普通の机……とはちょっと違うんだっけ。
机の中を覗くと、乾いた泥がへばりついていた。
「うわあ、ひどいねこれ」
れいかちゃんが覗いてびっくりしている。
「私の時のいじめそこまでひどくなかったよ。ペンなくなったり、体操服なくなったり、そんな程度だった。何これ、泥だらけじゃん。ひっどーい」
「もう物は入れらんなくなっちゃった」
私は机の中をつーっと指でなぞった。指には乾いた砂がついた。
「芽有たち、ほんと許せないよね」
「ううん、いいの。日向さんたちのことは、もうあの水風船を投げた時に解決したの。許すとか、許さないとかじゃないけど、あれで一区切りにしよっかなって思ってる」
「たかしちゃん、強いねえ」
「全然、強くないよ。まだ学校にも行けてないし」
「ううん、強いよ。ねえ麗夏?」
「うん、とっても頑張り屋さんだと思う」
私は自分の席に座った。前を向いて、黒板を見る。この光景が懐かしく感じる。また、学校行きたいなあ。
「きらなちゃんはなんで教室に来たの?」
「あー、えっと、久しぶりにたかしちゃんと教室でおしゃべりしたかったから?」
「ええーそれだけ?」
「うん、それだけ」
きらなちゃんは、私のことを考えて、ここに連れてきてくれたんじゃないかなって思った。本当にたったそれだけの理由でも、少し学校に対して勇気が湧いてきた。もしかしたら学校に行けるかも知れない。そんな勇気が。
「私、学校、行きたいなあ」
「こよ! 学校でいっぱい遊ぼ!」
「うん! いっぱい遊びたい!」
「うんうん! あ、でも、たかしちゃんのお母さんに怒られるかなあ、学校行かせたくないって言ってたし」
「ううん、大丈夫、お母さんならわかってくれると思う。きらなちゃんもいるし、ただしくんもいる。絶対守ってくれる人が二人もいるんだもん、わかってくれると思う。まだ怖くて、夏休み終わってからも行けるかどうかはわかんないけど」
「いいなー、私もダイワ中学校がよかったー」
「れいかちゃんは別の学校だもんね」
「私もみんなと遊びたーい。ずるいずるい!」
「ふふふ、駄々っ子だ」
「麗夏もちゃんと遊ぶ時は呼んだけるから。麗夏の事だって、忘れた事ないもん。ずっと、離れてても友達だよ」
「そっかー、ありがと! 私も、二人のことずっと覚えてる! 大の友達だよ!」
それから、机に座って授業ごっこをした。れいかちゃんは私ときらなちゃんの間の席に座っていた。問題も出されていないのに、手を上げて問題を答えたり、国語の授業みたいにクラムボンを言ってみたり。きらなちゃんが先生をやったり。楽しくて、みんな天文部のことをすっかり忘れていた。
「わあ! 忘れてた! 天文部!」
「ああ本当だ! もう六時半だよ! 学校ごっこしてる場合じゃなかった! 遅刻だ!」
「でも久しぶりにみんなと授業できて楽しかったー!」
「私も! れいかちゃんと授業できて楽しかった!」
「言ってる場合じゃない! 急いで急いで! 授業おしまい!」
みんなわたわたと席から立ち上がって、椅子をしまった。
「さ、走るわよ!」




