自爆しちゃった
「何だあ、ハグかあ」
「あれ? たかしちゃんが恥ずかしがらない。どういうこと?」
「おかしいね? いつもなら『ううう』ってなるはずなのに」
「は、恥ずかしいけど。でもよかったあって思って」
「よかったあ?」
「おいたかし」
「あう、な、何にもないよ。ハグだけハグだけ」
「おい、それじゃあもう言ってるようなもんだろ」
「ああううう、な、内緒!」
自爆しちゃった。言わなくていいこと言っちゃった。
「ははーん。大胆ね」
「大胆だねえ」
二人はとても笑顔だった。笑顔なのになんか怖い、なんか、怖い。
「まあいいわ、いいこと知れたしいいでしょう。これ以上は聞かないでおいてあげるわ」
「そうだね、二人だけの秘密だもんねー」
「ううう」
「で、この後なんだけど、私たちはついに、天文部に向かいます」
「俺は帰るけどな」
「忠も来たら?」
「いや、いいよ。女友達の集いを邪魔するほど野暮じゃねえし。俺は帰るよ」
そっか。帰っちゃうのか。
「ほら、たかしちゃんがしょぼくれちゃったじゃない」
「いいんだよ。こういうのは邪魔しない方がいいの。たかしとはまた別の日に遊べるんだから。な、たかしは綺羅名と御城と一緒に遊んでこい」
ただしくんは頭を撫でてくれた。
「うん、わかった」
「ひゅーひゅー」
「おい御城、それやめろ」
「いいじゃん、あつあつじゃん」
「じゃ、行こっか。あ、その前に行きたいとこあるから行っていい?」
「うん、いいよ? どこ?」
「教室」
「わあ、久しぶりだあ」
「私も校舎入るの久しぶり」
「じゃ、俺帰るわ」
「あら、行かないの?」
「だから。邪魔しないって。ま、楽しんでこいよ。んじゃなー!」
「ばいばいただしくんー!」
「バイバーイ」
ただしくんが帰っていった。もう今は六時くらいかな、まだお外は明るかった。
「で、で、ちゅーしたの?」
「ねえねえ? ちゅーしたんでしょ?」
きらなちゃんが迫ってきた。れいかちゃんも迫ってきた。
「どんな味? やっぱり甘酸っぱいの?」
「ううう、な、内緒なのー。ばかばかあ」
「ちぇっ、教えてくれたっていいじゃん。ねえ?」
「私たち友達なのにねえ?」
うう、友達でも、恥ずかしいものは恥ずかしい、内緒にしたい。ううう。
「味は……わかんないよ」
「やっぱちゅーしたんじゃん!」
「ううう、これ以上はなし! もう言わない! 内緒!」
「大胆ねえ、学校でちゅーするなんて。たかしちゃんも意外とやるわね」
ううう。
「き、きらなちゃんはどうだったの。阿瀬君と」
「うん、どうもしてないわ。なんか蹴人見てたら、今のままでもいいかなあって思ってきて。もし蹴人が誰かに告白されるようなことがあれば、その時に考えようかなあって」
「告白?」
「さっきね、もしも告白されたら教えなさいって言ってきたの。これだってすっごく恥ずかしかったんだからね? だから、告白されたら教えてくれるはずだから、その時になったら、私も告っちゃおうかなって。誰かに取られそうになったら奪い取ってやるのさ! あはは」
「なるほどう。告白されるかなあ」
「どうかねえ。サッカー部のエースだし、結構人気はあるんじゃない?」
「もうきらなちゃんが告白しちゃえばいいのに」
「それは無理。勇気ない。ま、私の話なんていいじゃん、教室行こー。早くしないと鍵閉められちゃう」
「それは急がないとだね」
「レッツゴーだね!」
私たちは走って校舎の入り口に向かった。もうほとんど人はいなかった。




