体育館裏で何してたのー?
「ほら、ここなら先輩にも後輩にも見つからないでしょ?」
「そ、そうだな。なんか、今日のたかし積極的だな……」
「うん、あのね。ここはね、私の悲しい経験の場所なの。でもね、あのね」
私は口籠った。なぜかうまく口にできなかった。
ただしくんは私の頭を撫でた。思考がきゅうっと吸い取られる感じがする。
「ふーん、そうか。じゃあ、今日からは幸せな経験の場所になるな」
「んっ?」
ただしくんは私の顎をくいっと上げて、ちゅーをした。
ここは誰にも見られない場所。
怖かった場所は、今、幸せな場所になった。
体がフワッとして気持ちがいい。
「ただしくん。今日、かっこよかったよ」
「たかしも、今日もかわいい」
「えへへ。なんでかな、気がつけばこんなにもただしくんが好き」
ただしくんをぎゅーっと抱きしめた。ただしくんも抱きしめ返してくれた。ただしくんの匂いがする。あせ、いっぱいかいてたなあ、ただしくんの汗の匂いも好きかもしれない。私って、変態さんかな。
「うん?」
「どうしたの?」
「いや、誰かに見られた気がした」
「えっ、み、見られたかなあ」
「いや、わからんけど、とりあえず戻るか。もう綺羅名たち来てるかもしれないし」
「うう、待って、今顔真っ赤だから。ただしくん、先戻ってて」
「わ、わかった。待ってるからな。バレないようにこっちからいくわ。」
「うん」
ただしくんは体育館裏を来た道とは反対の方に出て行った。
うう、顔が熱い。私、学校でちゅーしちゃった。その場にしゃがみ込んでもじもじした。
私ってこんなに積極的だったっけ。でも、この場所が怖いだけの場所じゃなくなった。じゃなくて、部活してるただしくん、カッコ良すぎて、引っ付きたくなっちゃったんだもん。でも、でも、初めはちゅーはするつもりじゃなかった。ただ抱きしめたかっただけだった。けど、思考、また読み取ってくれた。ちゅー、してほしいって思った。
はあー、思い出したらもっと顔赤くなって行ってる気がする。これじゃあ出られないよう。
ふうー。
ふうー。
目を瞑って何度も深呼吸をした。呼吸を整えた。
よし、大丈夫。もう大丈夫。
目を開いて、立ち上がり、見渡した。
うん、怖くない。
「ただしくん、おまたせー。あっ」
「ふふふ、たかしちゃん、おかえりなさい」
「ふふふ、たかちゃん、おかえりなさい」
きらなちゃんとれいかちゃんがもう来ていた。というか何か企んだような顔をしている。
「な、なになに」
「たかしちゃーん? 体育館裏で何してたのー?」
「たかちゃーん、何してたのー?」
「え、えええっと。さ、散歩?」
私はとぼけた。というかとぼけるしかない。本当のことなんて言えない。
「私たちねー。ねー麗夏―」
「ねーきらちゃーん」
「ううう、ど、どうしたのさ。た、ただしくん……」
「いや、あのな……」
ただしくんの元気がない。なになに。どうしたの。何があったの。
「たかしちゃんの秘密、みーちゃった」
「たかちゃんの秘密、みーちゃったー」
「ひ、秘密?」
さっきのちゅー、見られちゃった?
ううう、やめとけばよかった。誰にもバレない場所だって日向さん言ってたのに。
「さっきハグしてたでしょ、私たち見ちゃったもんねー」
「見ちゃったもんねー」
は、ハグ……ってことは、ちゅーは見られてないんだ。よかった。ふうー、よかった。