今日の晩御飯って何だろう?
足を伸ばして上を見上げていると、視界の上からただしくんの顔がひょっこり出てきた。
「わあ! びっくりしたあ」
「あはは、びっくりしすぎ」
「もう終わったの?」
やっと誰かが来てくれた。これで暇じゃない。
「うん、終わった。さっきマジでごめんな?」
「ううん、大丈夫だよ。ただしくん守ってくれたし、嬉しかった」
「そっか、それはよかった。あ、お疲れ様でーす」
体育館から他の部員さんが出てきては通り過ぎていく。
「ヘアバンド外したの?」
「ああ、部活終わったしな」
「なーんだ」
「ん? どうした?」
「ううん、なんでもない」
ヘアバンドしてるのもかっこよかったから、ちょっと勿体無いなって思っただけだもん。
「そういえば、今日急に来ちゃってごめんね? びっくりしたよね?」
「ああ、びっくりしたよ。しかも隣に御城いたし。まあ多分綺羅名の企みかなーって思ってたよ」
「あははー、あたりー。きらなちゃんはサッカー部見に行ってるけど」
「お、綺羅名にしては積極的だな」
「ねえ、阿瀬君ってきらなちゃんのこと好きだよね?」
「おー、そりゃ内緒」
「えー、何でさ」
ぷくっとほっぺたを膨らました。
「あいつらはあいつらなりにやってるからな。まあそのうちくっつくから心配いらねえよ」
「そういうものなのかあ。今日は思考読みとらないの?」
ただしくんはきょろきょろとあたりを見渡した。
「いや、だって、先輩とか後輩いるし……」
「ちぇー」
「ちなみに何考えてた?」
「今日の晩御飯って何だろう? って考えてた」
「今日天文部で学校泊まるんだっけ? 晩御飯どうするんだろうな」
「わかんない。きらなちゃんに聞いてみないと」
「あいつ知ってんのか?」
「さあ、わかんない」
「で、この後どうすんの?」
「えーっと、きらなちゃんとれいかちゃんが来るまでここで待っててって言われてるから待ってる」
「そうか、よっしょっと。じゃ、俺も待つわ。ってかなんで御城いんの?」
ただしくんが隣に少し離れて座った。私はちょっとむっとして距離を詰めた。
「きらなちゃんが呼んだの。無理やりねじ込むんだって」
「ほんと無茶するねえ。まあ綺羅名の考えそうなことだな」
ただしくんは空を見上げていた。
「ねえ、おてて繋いでいい?」
「だめ。先輩と後輩に見られたら茶化されるから」
「ちぇー。またお家きてね」
「うん。部活休みができたらいくよ」
「そういえばきらなちゃんとれいかちゃんがみんなでプール行こうって言ってたよ。行く?」
「まあ、蹴人たちがいくなら行くかなあ」
「阿瀬君たちこなかったら?」
「行かないかなあ。流石に女子だらけの中に男子一人は気まずいし」
「そっかあ、じゃあ阿瀬君たちには絶対に来てもらわないとな」
「てかあいつら遅いなあ」
「うん、遅いね」
……あ、そ、そうだ。
「ただしくん、ちょっとこっち来て」
私はただしくんの手を引かずにたたたっと逃げるように体育館の裏に入った。ただしくんが後ろからついてきてくれているのがわかる。私は泥水に沈められた場所に立った。
「なんだなんだ。待ってるんじゃないのか?」
「うん、ちょっとだけ。あのね。ただしくん。あの時はありがとう」
「あ、ああ、あん時な。バスケットボール投げただけだけど、助けられてよかったよ」
「でね、その時に日向さんたちが言ってたんだ。この場所は誰にも見られずに何かできる場所って」
「まあ、確かに、死角だしな」
「ただしくん、こっちきて」
「あ、ああ、いいけど」
私はただしくんの手を、両手を握った。




