私は今、どんな顔をしているんだろう
「恋だねえ」
「そーいえば、れいかちゃんは好きな人いないの?」
「うーん、私はいないなあ。それよりも水泳が好き。恋愛ってよくわかんない」
「そっかあ。私も恋愛ってよくわかんない」
「彼氏いるくせにー」
れいかちゃんは肘でうりうりとしてきた。
「でも、だって。きらなちゃんが阿瀬くんを好きってくらいに、私はただしくんのこと好きじゃないもん。あ、違くて。好きだけど、なんかきらなちゃんと阿瀬君とは違うなあって」
「そういうもんなんじゃない? 人には人の恋愛があるんでしょ! 知らないけどー。あはは」
「そっか、そういうものなのか。なるほどう。れいかちゃんはものしりだね。やっぱ何だか人生の先輩って感じ」
「あはは、何それ、同い年だよー。さ、私たちもいこっか。たかちゃんの彼氏は頑張ってるかなあ?」
「うう、そっか。ただしくんいるんだった。何だか行くのが恥ずかしくなってきた」
「だめだめ、はい、行きますよー」
れいかちゃんに背中を押されて。体育館の近くまできた。
「あ、ちょっと待って。こっち行きたい」
私はれいかちゃんの手を引いて、体育館の横と壁の間を通っていった。突き当たりを左にむくと、少し開かれた場所があった。今日は水溜りがない。私の足元と、体育館の裏には前、大きな水溜りがあった。
「どうしたの? たかちゃん、ここ、なんかあった?」
私は今、どんな顔をしているんだろう。
悲しい顔?
怒った顔?
わからない、けれど、心は静かだった。
「あのね、私、ここで日向さんたちに、水たまりに突き落とされて、下着姿にされたの」
「……ひどいね」
うん、本当にひどい。
「でもね、その時ただしくんが助けてくれたんだ。ここに、バスケットボールが一個飛んできてね、ここの足元にあった水たまりにはまったの。それを見て、日向さんたちは逃げてった」
「ただしー、かっこいいね」
「うん、その時にはただしくんが助けてくれたんだって全然気がつかなかったけどね。今はすっごい感謝してるの。それでね、この壁の向こう側に、私の靴があるんだって」
私は高い壁の上を指差した。
「この向こうに?」
「うん、梁さんか井岡さんか根波さんか、誰かが投げたんだって。もう新しい靴買ってもらったからいいんだけどね」
「たかちゃん!」
れいかちゃんは改まって私の名前を呼んだ。じっと目を見て何か言いたそうにしている。
「何? どうしたの?」
「抱きしめていい?」
「うん、いいよ」
「ぎゅー!」
れいかちゃんの温かい温もりが、ハグを通じて心に届いた。
「えへへ。ありがとう。れいかちゃん」
「ううん、たかしちゃんのこと、大切だから。ねえ、ここにくるの、嫌じゃなかった?」
「うん、何だか不思議なんだ。辛い思い出の場所だけど、きらなちゃんやれいかちゃんやただしくんがいるから、見てみようって思えたの。まだ、少し怖い気がするけど、でも、ここに立ってみて、ちょっと学校が怖くなくなったような気がする」
なんだか不思議な感じ。みんなのおかげで生きていけるって思う。
「そっか! じゃあ、また学校に行けるようになるといいね」
「うん! まだ怖い気がするけど、行けるようになったらいいな。……よし、じゃ、バスケ部見に行こ! もうここには要はないから」
「うん! 行こ行こ!」
心臓がドキドキしてる。緊張した。バスケ部の音が聞こえないくらい、緊張した。
そうだ、ただしくん、バスケットボールやってるかな。
体育館の入り口に行くと、扉は開いていた。左反面はバドミントン部が部活をしていた。バスケ部は……。




