背中をポンと押した
「なんだ? コソコソ話はもう終わったのか?」
「うん、あのね。さっきの練習試合のゴールのことなんだけどね」
れいかちゃんはもじもじしている。
これはかわいい。
れいかちゃんわざとだ、わざと可愛くしてるんだ。
「あのさ、かっ」
「ばああああ!」
きらなちゃんがれいかちゃんと阿瀬君の間に飛び込んだ。
「あははー。やっぱ何でもなーい。でも、きらちゃんが言いたいことあるって」
といって、きらなちゃんの背中をポンと押した。
私もやりたい。
私もきらなちゃんの後ろに行って、背中をポンと押した。
「いや、あのさ。ほら、その……」
なかなか言わないきらなちゃんの背中に、私たちはにじり寄った。
「えっと。さっきの、ゴールの話なんだけど……」
私はれいかちゃんと手を繋いだ。頑張れオーラを二人で送った。
「か、カッコよかったよ。ゴール」
「お、おおう。なんだよいきなり……」
「じゃ!」
きらなちゃんは走って校門の方へ行ってしまった。
阿瀬君の顔は赤かった。よし、成功だ。
「阿瀬君。じゃあね!」
「シューくんまたプール行こうね!」
「プール?」
私たちはきらなちゃんを追いかけて校門の方向に走った。きらなちゃんはすっごく早かった。校門の前できらなちゃんは立ち止まっていた。
きらなちゃんの顔は真っ赤だった。
「んもう! たかしちゃんと麗夏のばか! すっごい恥ずかしいこと言っちゃったじゃん!」
きらなちゃんは両手をグーにしてブンブンと振った。
「すごいよきらなちゃん、一歩前進だよ!」
「シューくん顔真っ赤にしてたよ。やっぱ二人は両思いだって」
「んあー! 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。恥ずかしすぎる! 次蹴人にどんな顔して会えばいいのよ!」
うーん。
「照れながら?」
「たかしちゃん?」
「えへへ、ごめんなさい」
「でも、顔なんて何でもいいじゃん。そもそもきらちゃんはシューくんに喧嘩腰すぎるよ。もっと優しくしてあげればいいのに」
「だってえ。蹴人の顔見たらああなっちゃうんだもん。私だって他のみんなみたいに接したいよー。どうすればいいのさー」
「うーん、わかんないけど、変わらなくていいんじゃないかあ。今のきらなちゃんを、阿瀬君は好きなわけだし。きらなちゃんはきらなちゃんのままでいいと思うなあ。そりゃあ、優しくできるならしてもいいと思うけど」
「確かに、この喧嘩腰でシューくんは好きなんだもんなー。むしろ喧嘩腰で正解なのか。これは盲点だった」
れいかちゃんは何だか探偵みたいだった。
「てことは、このままでいいってこと? でも、普通に話したりもしたい……」
きらなちゃんは見るからにしゅんとしていた。かわいい。絶対阿瀬君もかわいいって思う。
「何で喧嘩腰になっちゃうの?」
「緊張しちゃって。昔はそんなことなかったのに……。だって、あいつどんどんカッコ良くなるし、サッカー上手くなるし」
「あははー、きらちゃんゾッコンだね」
「たかしちゃんはいいなあ……。忠と無事付き合えて……」
「わ、私はそもそも好きとかわかんなかったし。無事とかじゃないんだよう。たまたまだよう」
「いいなあ、私もたまたま上手くいかないかなあ」
「そんなこと考えてる間は無理じゃないかなあ」
「ねえ、本当はね、この後バスケ部見に行く予定だったんだけど、私、サッカー部見に行ってきていい?」
きらなちゃんがそういうならそうしたい。
「いいよ! 私たちも行くー!」
「ううん、私一人で行ってくる。たかしちゃんと麗夏はバスケ部見に行ってて。後でバスケ部いくから」
「そうなの? 一緒に行かないの?」
「うん、ちょっと、一人で……蹴人見てたい」
きらなちゃん……。一歩前進なのかな?
「そっか、じゃあここで一旦解散だね。きらなちゃん。話す機会あったらしっかり話すんだよ?」
「うん、頑張ってみる」
「きらちゃんいいこいいこー」
れいかちゃんがきらなちゃんの頭を撫でた。
「あ、ずるい、私もー。なでなで」
私もきらなちゃんの頭を撫でた。
「じゃ、私、行ってくる。バスケ部は体育館だからね!」
「うん! 行ってらっしゃーい!」
きらなちゃんはスカートを翻らせながら走っていった。




