私に出来ること……
「あのね……。お婆ちゃんが倒れたの」
「リボンちゃんの?」
「うん」
「お婆ちゃんのこと、ずっと嫌いだって思ってて、死んじゃえって思ったこともあるんだけど、本当に倒れちゃって。そしたら、すごく不安になって、今までそう思ってたことがとても酷いことに思えてきて。でも、これからもお婆ちゃんのこと死んじゃえって思っちゃいそうで、心の底から心配の気持ちで見ることができない気がして。お婆ちゃんの命が後数ヶ月の命だって知った時、怖くて、私、お婆ちゃんから逃げ出しちゃったの。私、これからどうしていいか分からない」
「リボンちゃんは、お婆ちゃんのことが好きなんだね」
「うん……」
「そっか……うーん。えっと、お婆ちゃんの余命のことは、私じゃ何にも解決出来ないけど、おばあちゃんとの仲だったら大丈夫だよ! リボンちゃんが今感じてる不安は、多分、リボンちゃんがお婆ちゃんを不安にさせたくないって思ってるから不安になるんじゃないかな。私だって、お母さんのこと嫌いだーって思ったり、死んじゃえばかって思ったりするよ。でも大好きだし、心配させないように頑張ってる。うーん、違うなあ、頑張ってるっていうか、私に出来ることをしてる。お母さんがいくら喜んだとしても、私には頑張ってもお裁縫は出来ないし、その代わり自分ができる水泳とか、お料理とかでやるの。出来ないことはもう諦めた! 私は出来ることと出来そうなことをするのだぁ!」
左手を腰に当て、空に向かって人差し指を突き上げて、彼女はそういった。
なんだかちょっとバカみたいでかわいい。かわいくて思わず私は笑ってしまった。私が笑ったのを見て、御城さんも笑った。
私に出来ること……かあ。
私に出来ることってなんだろう。お裁縫は……出来る。お料理もお手伝いなら出来る。お家のことじゃなくて、学校はどうだろう。勉強はできるけど、友達作りは……。
「出来るかな、私に……」
聞こえないくらい小さな声でつぶやいた私に、彼女は「大丈夫! リボンちゃんにだって出来るよ。だってお話ししててこんなに楽しいんだもん」と言ってくれた。
「ねえねえ、お話しよ。聞きたいことあるんだけど、聞いていい?」
「うん、いいよ」
「リボンちゃんのそのかわいいリボンってさ、どこで買ったの? 結構おっきいよね」
後ろ手に手をくんだ御城さんは身を乗り出して私の付けているリボンを覗き込んできた。興味津々だ。
前から見たら猫耳みたいに見える、私の頭より少し大きな赤いリボン。かわいいって言ってもらえた。嬉しくなった私はくるりと後ろを向いて、自慢のリボンを披露した。
「えへへ。このリボンはね、お婆ちゃんが作ってくれたんだ」
保育園の……あれは何歳だったんだろう。でもリボンをもらった時のことは鮮明に覚えている。
小さかった私は、とても悲しくって、悔しくって、おばあちゃんに泣きついたんだ。