じゃあ私が言っちゃおっかなあ
「何してんの? こんなとこで」
「何、たかしちゃんには挨拶するのに私には挨拶なしなの?」
「あー……。よっ!」
「よっじゃないわよ。もっとなんかあるでしょなんか」
「いや、ないだろ。ってか御城もいんじゃん。何でたかしの体操服着てんの?」
「ばかねえ、わからないの? 変装よ、変装」
「あー、はっはっは。なるほどね。それで学校に侵入しようってことか。確かにいい案だわ」
「なに? ばかにしてる? せっかくナイスゴールって褒めてあげようかと思ったのに。ここ、惜しかったわね、次は絶対決めるのよ?」
「うん、任せて。外したのすっごい悔しいから次は決める。もうあと二本練習試合あるんだけど見てく?」
「いや、私たちは別のところ行くわ」
「なんだ、そうなのか」
「なに? 残念そうね。またシュート決めるとこでもたかしちゃんに見てほしいわけ?」
「そんなこと言ってねえだろ。そもそもなんでたかしなんだよ。忠に怒られるわ」
「ねーたかしちゃん、いやあねえ。さ、行きましょ行きましょ。もうすぐもう二本目が始まるんでしょ」
「始まるのは休憩してからだよ。まだ始まらねえ」
「チームメイトと話し合わなくっていいの? 戦術とかさ」
「それも大事だけど、休憩だしなあ。あんま頭使いたくないっていうか」
「私たちとの会話は頭使わなくて済むんだ」
「いやまあ、そりゃ、普通に話せば済むし」
「私はこんなにいろんなこと考えてるのに! ばか!」
きらなちゃんが阿瀬君の頭を叩いた。きらなちゃんが空回りしてる、どうすれば、でもいつも通りな気もする。恋の後押しって難しいよう。
「まあいいわ、そこまでいうならおしゃべりしてあげるわよ。ねーここ」
「あ、うん。僕ちょっと先輩に言いたいことあるから先輩のとこ行ってくる」
ここちゃんはくるっと回ってサッカー部の人たちが集まっているところに走っていった。
「ここ! あら、行っちゃったわ……」
「あいつさっきシュート2本外したからなー。先輩のパス若干ずれてたし。なんか話したいことでもあるんだろ」
「あんたはいいの?」
「俺は決めたしな」
あ、そうだ。
「きらなちゃん、きらなちゃん」
私はきらなちゃんにコソコソ話で言った。
「ゴール、カッコよかったって、言わないの?」
「言わないわよ、何でそんな恥ずかしいこと言わなくちゃいけないのよ」
きらなちゃんもコソコソ話で返してきた。麗夏ちゃんも聴こえるところに顔を近づけてきた。
「だって、阿瀬君誰かに取られちゃったらどうするの? 阿瀬君かっこいいでしょ。早くきらなちゃんのものにしないと」
私は阿瀬くんに見えないように小さくガッツポーズを作った。
「たかしちゃん、わかったわ、これは忠の時の仕返しね? いつものたかしちゃんがそんなこと言うわけないもの」
「きらちゃん、ふぁいと」
れいかちゃんは笑いながら小さくガッツポーズを作った。
「麗夏は黙ってて。そんなことより私はそんなことは言いません。わかった?」
腰に手を当ててきらなちゃんが私たちに言い聞かせた。
「じゃあ私が言っちゃおっかなあ」
そんな気はさらさらないけれど、きらなちゃんのために言ってみた。……本当に言うってなったらどうしよう。
「たかしちゃん? 何言ってるの? あなたには忠がいるでしょ? それにたかしちゃんはそんなこと言わないでしょ?」
「じゃあ、たかちゃんに代わって私が」
れいかちゃんが乗ってきた。これで私は言わなくて済む。よかった。でも今度はれいかちゃんが言うことになっちゃった。
「麗夏って蹴人のこと好きなの?」
「うーん、好きかも」
「えええ!」
えええ!
麗夏ちゃん阿瀬くんのこと好きなの?
「お前らコソコソ何話してんだ?」
阿瀬君が怪しがってのぞいてきた。
「な、何もないわよ! で、えええ? 麗夏そうだったの? じゃあライバル?」
「あははー、やっぱきらちゃんシューくんのこと好きなんだー。いっつもイチャイチャしてたもんねえ」
「はっ、そうだったわ、麗夏にはまだ蹴人が好きって言ってなかったんだった。しまった、口が滑ったわ」
「もう遅―い。ねーたかちゃんー」
なんだ、きらなちゃんいかまかけただけか。びっくりしたあ。
「ねーれいかちゃん。早くかっこいいって言えばいのにねー」
「きらちゃんって意外と奥手よね。かっこいいも言えないなんて」
「う、うっさいわねえ、いいでしょ奥手でも。怖いものは怖いのよ」
「じゃ、私がお先に……。ねえシューくん」
れいかちゃんが阿瀬君に話しかけた。




