でも何だか悪いことするのも楽しいって思えた
「ほら、部活やってる。今日練習試合なのかしら。試合やってるわね」
「試合やってるんだ」
私は見ただけではわからなかったけど、きらなちゃんが言うんだからそうなんだと思った。
「お、蹴人もここも出てるわね。あいつら二人ともフォワードなのよねえ。まあここは左でシュートは右だけど。よし、もうちょっと近づいて見てみよう」
すると、サッカー部の顧問の雲藤先生に見つかった。私ときらなちゃんの担任の先生だ。
「お、高橋じゃないか。久しぶりだなあ」
私が休み始めてから、雲藤先生は二回、私の家まで心配してきてくれたことがあった。「学校にこい」とか「大丈夫だから」とかそんな言葉は言わずに、私の自宅学習を応援してくれた。「また来たくなったらこい」といって、勉強用のプリントを渡してくれた。雲藤先生は信頼できる先生だって思った。
「学校、来れたじゃないか」
雲藤先生が優しく声をかけてくれた。
「えっと、お休みの日だから……」
「いやいや、休みの日だろうが、平日だろうが、学校に来れたことは変わりないんだから、それは自信持っていいと思うぞ。これがきっかけで、平日も学校に来れるようになるかもしれないんだし。経験ってのは大事だぞ」
「はい。頑張ります」
私は頭を下げた。すると雲藤先生は言った。
「いや、頑張らなくていいよ。来れる時にこい。来れなかったらその時はそれでいい。先生はいつまでも待ってるからな」
「ありがとうございます」
すごく嬉しかった。雲藤先生は本当に暖かい人だと思う。
「で、そこにいる御城は何で高橋の体操服を着てるんだ?」
「げっ、教司、麗夏のこと知ってんの?」
「げってなあ、知ってるよ。一年時隣のクラスだったろ? 吉良と同じ水泳部で一年の時に引っ越していった」
「何で隣のクラスの子を知ってんのよ。絶対知らないと思ったからここまで近づいてきたのに」
「先生は何でも知ってんの。ま、いいわ。見なかったことにしといてやるからあんま無茶すんなよ?」
「はーい」
この後すごい無茶をしようとしてるのに、きらなちゃんは平気で返事をした。だ、大丈夫なのかなあ。怒られたりしないかなあ。いや、多分。絶対怒られるんだけど……。私って、かなり不良になっちゃったなあ。ふふ、でも何だか悪いことするのも楽しいって思えた。
雲藤先生は部活動に戻っていった。大声で誰かの名前を呼んで指差して指揮を取っている感じだった。
「麗夏、教司とあったことあるの?」
「な、ないよ。見たことはあったけど、初めてこんなに近くで見た」
「何で知ってたんだろう……」
「さあ、私ときらちゃんが友達だから?」
「そんな理由? 私友達把握されてんの? こわ。こわ」
「でも、それくらいしか思いつかないよ」
「だよねえ。まあいいわ。見逃してもらったし。まっさかいきなり見つかるなんて思わなかったけどね。せっかく練習試合してるんだし、応援しましょ。いけー! ここー! ばか蹴人ー!」
「が、頑張れー!」
「ファイトー!」
三十分ぐらいして、長い笛が吹かれた。みんながゾロゾロと集まって、二列になって、お互い向き合ってお辞儀をした。ここちゃんは何本か惜しいシュートがあったけれど、ゴールすることはできなかった。阿瀬君は二本、シュートを決めて、ゴールのネットを揺らしていた。
「蹴人ナイスー!」
ってきらなちゃんは嬉しそうに飛び跳ねていた。私も嬉しくて、一緒に飛び跳ねた。サッカーのルールはわからないけれど、ゴールに入れればいいことくらいは知っている。この三十分間で、サッカーに少し詳しくなったと思う。
「あれ? たかしじゃん」
阿瀬君が私を発見して走ってきた。
「本当だー! たかたか久しぶりー!」
ここちゃんも阿瀬君について走ってきた。




