たかしちゃん、体操着とジャージ準備しといて
「あ、もしもし、麗夏さんいますか?」
「麗夏は私ですけど、どなたですか?」
うっすら会話が聞こえてくる。私は受話器に耳を近づけて、会話を聞いた。
「あ、ごめんごめん、綺羅名よ。吉良綺羅名」
「え、あー! きらちゃん。どうしたのこんな時間に?」
「うん、あのね。明日遊べない? あ、違う、明日じゃなくて明日と明後日」
「明日も明後日も部活があるねえ。急だねえ。どしたの? なんかあった?」
「なんかあったって言うか。なんていうか。明日さ、部活の合宿があって、学校にお泊まりするんだけど、麗夏もどうかなって思って」
「お泊まり? てことは着替えとかいるんだ。でも楽しそうだなあ。部活休んじゃおっかなあ。てか、それ私行っていいの? 怒られない?」
「着替えはパジャマくらいかなあ。あと多分怒られる。めためた怒られると思う。けど、怒られた後帰れとは言われないと思う。麗夏の家遠いし」
「あはは、なるほどねー。そんなうまく行くかなあ。でもうまくいかなかったとしてもそれはそれで楽しそうだなあ。帰れって言われたら帰ろっかなあ。最悪お母さんに迎えに来てもらえるだろうし」
「じゃあ、来る?」
「うん、行く。天文部だよね? 星見るんだよね? 行きたい。私準備するね」
「パンツ忘れちゃダメだよ?」
「あはは、パジャマだけでいいんでしょ。じゃあ、どうしよっかなあ明日の十二時にいつもの公園でいい?」
「あー、それより金子さん来れる?」
「金子さんって、あの駄菓子屋さん?」
「そうそう、私いまたかしちゃんの家泊まってるからさ。金子さんとたかしちゃんの家近所なのよ」
「そうなんだ。じゃあそうする。ってことはいまたかちゃんいるの?」
「うん、受話器から聞こえる麗夏の声を盗み聞きしてるわ」
「あははー、たかちゃんかわいい。ねえ、ちょっとかわってよ。お話したい」
「いいよー、はい。かわってって」
えっ、それは考えてなかった。電話でお話しするのはちょっと緊張する。
「も、もしもし? れいかちゃん?」
「もしもし? たかちゃん? 久しぶりー」
「ひ、久しぶり」
「なになに? 緊張してるの? もー、緊張なんてしなくていいのに」
「うう、だって、久しぶりだから」
それに電話だし。
「たかちゃんのお家金子さんの近所だって聞いたからさ。明日お家寄っていい? お家入っていい?」
「うん、いいよ。何にもないけど」
「ぬいぐるみとかあるでしょー。私、見たかったんだよね」
「うん! いいよ! 見せてあげる!」
嬉しい、見せたい。れいかちゃんにも見てほしい。
「じゃあ、明日十二時くらいに金子さんに行くから、迎えに来てね」
「うん、迎えに行く!」
「てことだから、また明日ねー!」
「うん、また明日―」
ガチャリ。といって電話が切れた。
「あら? 電話切れたの? なーんだ、私に返ってくるもんだと思ってたわ。まあいいや。これで第一段階作戦は成功ね。次は第二段階ね」
第一段階はれいかちゃんを誘うこと、じゃあ第二段階は何だろう。
「第二段階って?」
「それは明日のお楽しみ!」
「ちぇー」
「たかしちゃん、体操着とジャージ準備しといて」
「うん、わかった。けどなんで?」
何に使うんだろう。運動するのかな。それはちょっと嫌だなあ。
「なーいしょ」
「教えてくれてもいいのにー」
「明日のお楽しみよ」
私たちは部屋に戻った。