麗夏呼ぶの
「もう寝る?」
「ううん、まだ寝な−い。今日は夜更かししよー」
私はきらなちゃんの膝にすりすりした。
「あははー、じゃあ夜更かししちゃうかあ。何の話するー?」
「うーん、何のお話しよう。毎日話してるから話題がなくなっちゃうね」
「忠とたかしちゃんの話ならいくらでも聞けるけどね」
「もうー、私のお話はいいのー! きらなちゃんのお話聞かせてよ」
「私の話ー? そんな面白くないよ?」
「いいの、きらなちゃんのこと知りたいから」
金髪になる前のきらなちゃんとか、知りたい。まだ聞いたことない。
「私かあ。そうだねえ。たかしちゃんはもう知ってると思うけど、私は、一年の時は水泳部に入ってたんだよね。麗夏がいなくなってやめちゃったけど」
「うん、それは聞いた。水泳部楽しかった?」
「うん! 楽しかったよ! 毎日麗夏と競争してた。大会とかも出たし、結果はまあまあだったけど。でも楽しかった。ああ、だけど、今も楽しいんだよ? 天文部、ほとんど行ってないけどたかしちゃんがいるから楽しい!」
「そっかあ、もう一回水泳部入りたいって思ったりしないの?」
「うーん、思わないかなあ。それともたかしちゃんも一緒に入ってくれる?」
わ、きらなちゃんのこの目は本気の目だ。これはちゃんと断らないと……。
「わ、私は無理だよう。運動全然ダメだもん。水泳の時間でも二十五メートル泳げないし」
「練習したら泳げるようになるよ。それに、合宿とかあるよ? 学校じゃないとこで泊まって練習するの」
「そ、それは楽しそうだけど、運動は無理かなあ。私、天文部がいい」
「そっかー、でも天文部も合宿あるしね、一日だけだけど、明日。楽しみだねえ」
「うん、すっごく楽しみ。あーるちゃんたちも来るんだよね?」
「来ると思うけどなあ、どうなんだろう。わかんない」
「来るといいなあ」
学校も行ってないのに部活で会うのはとても緊張する。けど、楽しみだった。またみんなで楽しく遊びたい。火星人のストラップ、ちゃんと付けてるんだよって見せないとな。
「ねえ、私いいこと思いついたんだけど、どう思う?」
「いいことって?」
きらなちゃんが悪い顔をしている。
「麗夏呼ぶの」
「えええ! れいかちゃんを? で、でも参加の紙とか出してないし、そもそも別の学校だよ?」
「だからね、夜に無理やりねじ込むの。先生がダメって言っても、麗夏の家じゃ遠すぎて一人で帰れないでしょ? だから、きっと先生が折れて、仕方ないなあってなると思うの」
「そ、そんなに上手に行くかなあ」
「でもやってみないとわかんないでしょ。今何時? 八時五十八分か。電話するなら今だな」
きらなちゃんはやるって決めたらやる人だ。私には断ることはできるけど止めることはできない。それに、私もちょっといいなって思ってる。れいかちゃんも一緒に学校に泊まるなんて、楽しそうでたまらない。
「電話番号どこ?」
「あ、えっと、下の連絡帳に書いてあるよ」
「よし、電話しよう」
きらなちゃんが階段を降りていった。
待ってきらなちゃん。私のこと忘れてるよう。
追いかけるように私も階段を降りて居間に入った。
「なになに? こんな時間に電話?」
「うん、ちょっとれいかちゃんに」
「失礼のないようにね」
「はあい」
きらなちゃんは連絡帳から御城麗夏の名前を探して、番号を入力した。
きらなちゃんの耳に当てている受話器から、ぷるるるという呼び出し音が聞こえてくる。
「もしもし、御城ですけど」




