お湯がじゃばーっと浴槽から溢れ出した
「ほら、また忠のこと考えてるわね。なにぼーっとしてんの。ここ座って。髪洗うよー。シャンプーつけて。ほれほれ」
きらなちゃんは私を椅子に座らせて。頭をわしゃわしゃと洗ってくれた。マッサージみたいで気持ちがいい。泡を流してもらって今度は私の番。きらなちゃんの髪にシャンプーをつけて洗う。
「痒いところはないですかー」
「背中が痒いです」
「背中は自分でかいてください」
「んもう、サービスがなってないなあ」
きらなちゃんは腕を後ろに回して背中をポリポリとかいた。ふふ、本当に痒かったんだ。
「はーい、じゃあ流しますよー」
ゆっくりと丁寧に髪を流していく。泡がなくなるまで何度も何度も手櫛でといて。
「はいつぎ、たかしちゃん座ってー」
「うん」
きらなちゃんに髪を洗ってもらうのは気持ちよかった。明日もまた洗ってほしい。明後日も。
「じゃトリートメントしようねー」
「はーい」
「たかしちゃんの髪はサラサラで羨ましいなあ。あんなに長かった時もツヤツヤだったもんねえ。今は短くなっちゃったけど、でもサラサラだあ」
「うん、自慢の髪なんだあ。短くなってもまだ自慢だよ。それに、この先はもうずっと短いかも」
「なんで?」
「ただしくんが、短い方が可愛いって言ってくれたから」
「あつあつだねえ」
「うう、でも、本当だもん。だから、ちょっとだけ日向さんには感謝してる。絶対に自分からは短くしようと思わないから。おかげでただしくんに可愛いって言ってもらえた」
「たかしちゃんは強いねえ」
きらなちゃんが抱きしめてくれた。背中にきらなちゃんの胸の感触がする。ちょっと恥ずかしい。
「よし、じゃあ私にもトリートメントをしてください!」
「はい、任せて! ……きらなちゃんの髪はちょっとギシギシしてるね」
「うーん、金髪にするためにブリーチしてるしどうしても傷んじゃうんだよねえ」
「そっかあ、でもきらなちゃん金髪似合ってるからなあ。綺麗になあれ、綺麗になあれ」
私は気持ちを込めてトリートメントを塗った。
「よーし、トリートメント置いてる間に体洗っちゃおっか」
「うん」
「まずはー、大量の泡を作ってー……。たかしちゃんに付けていく」
「ふふふ、あははは、くすぐったいよう。体は自分で洗えるよう」
「いいのいいの、私が洗ったげるから、その代わりたかしちゃんは私の体洗ってね」
「はあい」
二人で体を洗いっこした。こそばゆくて二人で逃げながら洗った。トリートメントも泡も流し終わって、湯船を見つめた。あそびながらお風呂に入ったから、もう熱くて疲れていた。
「入る?」
「……ちょっと入ろうか」
私たちは二人で湯船に浸かった。
お湯がじゃばーっと浴槽から溢れ出した。
「ふいー。楽しかったー。やっぱり一緒にお風呂に入ると楽しいね」
「うん、私誰かとお風呂に入ったのお母さん以来だ」
「実は私も初めてだなー」
きらなちゃんはちょっと顔を逸らして言った。なんか怪しい。
「本当? なんか嘘っぽい」
「うっ、たかしちゃんたまに鋭いよね」
「誰々? 私の知ってる人?」
「しゅ、蹴人よ。小学校五年生くらいまでよく一緒に入ってたわ」
「ひゃー、えっちだー」
「その時はえっちとか考えてなかったの! もう、たかしちゃんのくせに」
「ふふふ、いつものお返しー」
「あのたかしちゃんがお返しなんてするようになって、うう、嬉しいわ」
「あはは、嬉しいんだ。でも、私、きらなちゃんと遊ぶようになってから、自分でもだいぶ変わったって思うよ。すごく話せるようになったと思う。学校に行ってもこれだけ話せるかわかんないけど、でも話せるような気がする」
きらなちゃんの力はすごい。本当にそう思う。
「よかった。私がどれだけ力になれてるかはわかんないけど、たかしちゃんが楽しそうでよかった。何せ学校に行ってないのに彼氏まで作るんだもんね」
「うう、それは、たまたまだよう」
「たまたまかあ、でもいいなあ彼氏。私もほしい」
きらなちゃんは口まで浸かってブクブクした。




